ドローン事業に転換した株式会社CLUEは、「ドローンが当たり前に飛び交う社会」というビジョンを掲げ、まだ市場が確立されていない領域でビジネスを切り開きました。まずドローン専用メディア「DRONE BORG」の運営を通じて、ドローンのビジネスモデルを整理し、その後、屋根外壁点検アプリ「DroneRoofer」や、建設現場のための施工管理アプリ「ドローン施工管理くん」などを開始しました。サービス立ち上げ当時の経緯を、代表の阿部亮介さんに伺いました。
ドローン起点でどんな「世の中の不を解決」できるかを考える
朝田)ドローン事業に転換して、最初にドローン専用メディア「DRONE BORG(ドローンボーグ)」を立ち上げられたんですよね?
阿部)最初にドローン専用メディアを始めたのは、海外でのドローン活用事例やドローン関連スタートアップの製品をきちんと調査しないと、正しい製品ができないと考えたからです。ドローンのビジネスモデルの体系的理解を目的にスタートしましたが、ドローンを活用したい大企業とつながることができた副次的な効果が大きかったですね。
朝田)現在の事業にたどりつくまでにどのようなチャレンジをされてきたのでしょうか?
阿部)最初に出した製品は、ドローン用データ管理クラウドサービス「DroneCloud(ドローンクラウド)」です。ドローンを実活用している事業者が取得したデータや飛行ログ、パイロット情報などを一元管理できるようなプラットフォームで、2015年11月にリリースしました。国内の利用者が少なかったので、最初から英語版をリリースした結果、30カ国くらいのユーザーに使っていただけました。ところが、ドローン産業自体、その時点では黎明期過ぎて、成長率が非常に低かったため、いったん諦めてサービスを閉じることになりました。
ドローンのハードウェアではグローバルでもDJIが圧倒的に強いですが、産業用のソフトウェア領域ではプラットフォーム系事業者がなく、狙い所だと考え4G/LTEの携帯回線を利用したドローンの遠隔操作システムの開発を2016年夏頃から開始しました。しかし国内では電波法の兼ね合いで事業化に時間がかかり、資金的な問題もあってこのまま続けるのは難しいと感じていました。その矢先にドローンによる屋根点検の話がきました。
2017年2月に岡山県の屋根材卸、白神商事から当社のサポートにメールをいただき、「屋根事業者は団塊世代が多く、高齢化で職人が急速に減っている。リフォーム需要は伸びているのに供給側が減っていて、このままでは業界が崩壊してしまう。屋根点検は滑落なども多く、死亡や骨折につながる危険があるので、ドローンを使ってこの業界を救ってほしい」という熱いメッセージをいただいたのが最初でした。
実は、アメリカでは2015年ころからハリケーンなどの大規模災害のあとにドローン企業が保険会社と組んで災害地域の戸建て物件の屋根点検をドローンで行うことが普及してきました。日本でもそれに特化した製品を作ればビジネスとして受け入れられると思いました。「DroneRoofer(ドローンルーファー)」を開発し始めたのが2017年3月になります。
朝田)タイムマシン経営で、アメリカの事例からうまく取り入れているんですね。
阿部)実際の事業化の意思決定においては、「ドローンという技術によって本当にそのお客様のイシューを解決できるのか」の検証をとても大切にしていますが、海外のドローン活用事例については常に最新の情報をキャッチアップするようにしています。
「ドローン施工管理くん」という製品の開発のきっかけは清水建設がアフリカ・ガーナで立体交差点を作る案件を受注して、現地のガーナ人の作業員の方が簡単な操作でドローンの自動飛行・撮影を行い、そのデータを施工管理に使いたいというニーズをいただき、工事現場の定点観測に利用する需要があることが確認できたので、「ドローン施工管理くん」をスタートしました。このように新製品の開発では「お客様のイシューが解決できるのか」がまずは最初に来ますが、市場の検証という観点では海外のコンストラクション領域でのドローン利活用の拡大を踏まえた上で、国内外で市場規模が十分に見込めることを検証した上で事業化に至っています。
朝田)CLUEでは早い段階から海外展開に挑戦されていたんですね。
阿部)ガーナでは1万4000kmの国道をドローンで点検するプロジェクトを進めていました。経済成長の伸びにインフラ整備が追いついていないために、補修が必要な道路が数多く存在しています。しかし、人力での点検作業は多大な時間と人手が必要な上に不正確で、補修工事が進まず、交通事故も多発していました。そこで、ガーナ国土交通省のGHAとドローンを使って道路点検を行う協定を2017年5月に締結しました。
アフリカは携帯回線が普及していて、日本のようにドローンで携帯回線を使ってはいけないという電波法もないので、アフリカを起点に4G回線を利用したドローンの遠隔操作システムを使った道路点検をして、その技術をノウハウとして蓄積できると考えていました。
コロナ禍でも「DroneRoofer」が売り上げアップに貢献
朝田)DroneRooferについてもう少し詳しく教えてください。
阿部)DroneRooferはiPadだけでドローンを安全に操縦し、屋根外装点検を行えるアプリケーションです。2017年11月にサービスを開始しました。ドローンを操縦する市販のコントローラーで建物の点検を行おうとすると、ヒューマンエラーなどで事故が起こるリスクがありますがDroneRooferを使えば、コントローラーを触らずにiPadの画面をタップするだけでドローンを操縦できます。アプリ上で屋根と外壁の面積の計算もでき、その場で施主様向けにお見積もりや調査報告書を作成することもできます。
朝田)実際にお客様に使ってもらって、反応はいかがでしたか?
阿部)DroneRooferを実際にお使いいただくのは現場で工事をしている職人の方になります。そのため、リリースして1年間くらいは、屋根に登って踏んだ感触で内部が腐っているなどを判断するから、結局登らないとわからないという声もありました。ただ、確かに踏まないとわからない箇所があったとしても、ドローンで撮影された写真画像だけでも工事が必要かどうかわかることも非常に多いです。
DroneRooferのリリース当初は日本国内ではそもそも戸建て物件の点検でドローンを使うという習慣が全くなく、まさに市場をゼロから生み出す必要があったため、業界新聞などの業界特化型のチャネルに継続的に出稿したり、地域のステークホルダーを中心にハイタッチなコミュニケーションに注力したり、マーケティング&セールスに力を入れることにしました。ドローンを使うと安全で効率的に点検できるという啓蒙活動をずっと続けてきて、リリースから3年半になりますが、オーガニックな問い合わせも増え、事業は順調に成長を続けています。
朝田)新型コロナウイルスの影響はどの程度ありましたか? 現場に行けない状況もありますか?
阿部)2020年4月の緊急事態宣言直後はアポがリスケになり、需要が落ち込むことがあったのですが、その後は毎月順調に売り上げが伸びています。産業構造的に非効率が残っている業界では、コロナをきっかけにDXの機運が高まっていますので、当社の事業にはプラスに働いていると思います。営業活動で現場に行けない場合でもWeb商談をうまく活用しながら事業を進めています。
DXという観点では、DroneRooferを使うと、はしごをかけて屋根に登ると2時間かかる点検が5分でできるので、1日に回れる軒数も増えます。また、手元のiPadでリアルタイムに屋根の状態が見えるので、壊れている箇所などを確認してもらって、施主様から納得感をもって工事の発注をしてもらえます。DroneRooferが受け入れられたのは、事故のリスク減少や効率化だけでなく、売り上げアップに寄与できることが大きな要因だと思います。
工場の屋根の補修という数千万円の入札案件で、DroneRooferを使って工事前、工事中、工事後の写真を全部納品しますと提案したら入札できたケースがあります。その案件だけでも導入費用を十分ペイできますからね。