ビジネスで人工知能を活用する「ビジネスAI」の分野は、働き方改革を背景に多くの企業で取り組みが始まっています。AI-OCR、音声認識、自然言語処理などの技術を提供し成長するAIスタートアップのシナモン 代表取締役の平野未来さんに、起業の経緯やサービスについて伺いました。
効率的に働けるシステムを社会的な課題解決につなげたい
最初に起業したのは大学院在学中でした。グーグル創業者と同じ複雑ネットワークという学術分野を研究していたので、同じ研究分野をビジネスに応用して成功したグーグルのように、世界中の人々の生活を変えるような企業を作りたいと思ったのがきっかけです。
当初からAIでの事業化を目指していましたが、創業した2006年当時はAIに対する関心が低く、興味を持ってもらえませんでした。いくつかの事業を経て最終的にはガラケー向けのミドルウェア開発で事業化し、2011年には会社をミクシィに売却しました。その後、2012年にシンガポールでシナモンの前身となる写真共有サービス開発のSpicy Cinnamonを創業したものの軌道に乗らず、帰国後は日本で需要が高まってきたAIの受託開発を行っていました。
転機となったのは2017年に出産を経験したことです。その少し前に大手企業での過労が問題になり、自分の子供が大きくなったときに今のような無理な働き方を残したくないと考えるようになりました。それが「日常的に発生する無駄な業務をなくし、人が創造性溢れる仕事に集中できる世界を目指します」という現在のミッションにつながっています。
もともと効率的に働くことが好きで、最初に起業した会社でも自分専用のシステムを勝手に開発したりしていました。当時は効率的に働くということのベクトルが自分にしか向いていませんでしたが、出産や過労死の事件が重なったことで、社会的な課題解決へと意識が向くようになりました。
AIを通じ非構造化データを有効なインサイトに変換し経営に生かしてもらう
シナモンが提供しているのはビジネス分野でAIを活用し効率化を目指す「ビジネスAI」の分野です。主にAI-OCR、音声認識、自然言語処理といった技術を用いてメール、画像、音声などの各企業内に眠る非構造化データを構造化し活用することができるAIサービスを開発しています。
さまざまなデータを分析して経営に生かす時代になりましたが、そこで使われるのはデータベースに収まっているような構造化データです。ところが、ビジネスで扱われているデータのおよそ8割は紙や音声、デジタルドキュメントなどの非構造化データで、そのままでは整理したり、活用したりすこることが簡単ではありません。
つまり、メールの文面や録音した議事録の音声データ、客先に送信した提案資料など、ビジネスで蓄積されるデータをコンピューターが分析できる形に加工する必要があります。しかし、人間がひと手間かけてデータを加工するのは非効率的です。AIが自動的に構造化データとして整理することができれば、そのまま分析に利用できるだけでなく、社内システム情報のアップデートや定型業務の自動化も可能です。
シナモンでは、非構造化データを整理し、重要な情報を抽出し、経営に活用するAIプロダクトを提供しています。日々のビジネスで生まれるデータがそのままAIで分析できるようになり、ひいてはそれが経営にインパクトを与えるような、そんな世界を目指しています。