東北大学発宇宙ベンチャー、株式会社ElevationSpaceが挑む小型人工衛星の大気圏再突入・回収は宇宙ビジネスのコア技術になり得る可能性を持っています。CEOの小林稜平さんと取締役の桒原聡文さんに同社のプロジェクトの優位性と展望を伺いました。
あらゆる産業に直結する宇宙ビジネス
ElevationSpaceが小型衛星の再突入・回収技術に取り組む理由は、宇宙環境での実験・実証の場を提供することに重点を置いているからです。宇宙環境での実験といえば自分の会社や産業には関係がないと思われがちですが、小林さんはそれが「あらゆる産業に直結する」と考えています。宇宙環境での衣食住のためだけではありません。無重力環境では、例えば創薬の研究や半導体材料や合金材料など高機能材料の製造など、地球上では不可能なことも可能になります。
実験した物質を回収してユーザーの手元に戻すことで、通信経由では得られない情報も得られます。例えば部品一つとっても、それを回収してX線検査をすることにより、破損箇所や原因の特定が可能です。
具体的なビジネスモデルについて、「わかりやすくイメージしていただくために説明すると、人工衛星内の空間の『場所貸し』モデルです。複数のユーザーに衛星内の実験空間を提供し、高い稼働率で衛星を活用し、低コストで頻繁に利用してもらうことを目指しています」。小林さんは「あらゆる企業が気軽に実験・実証を行える環境を作ることで、宇宙開発の価値を根本から変えたい」と言います。
ポストISS時代のコア技術
小型人工衛星と大型人工衛星には一長一短があります。小型人工衛星は高頻度で打ち上げられ、短いリードタイムで実験・実証が可能です。一方、大型の実験機器や人間が必要な実験は大型人工衛星が適しています。
国際宇宙ステーション「ISS」では、大規模で複雑な実験を行うことができますが、人間が宇宙空間で活動することの制約もあります。無人の人工衛星なら、ISSよりも簡単にさまざまな実験ができ、宇宙空間を活用するハードルが下がります。
ElevationSpaceが2025年の技術実証機打ち上げを目指す小型人工衛星ELS-Rは、宇宙空間での研究開発・製造と地球への物資を回収する機能を備えたプラットフォームです。2030年にはISSの運用が終了しますが、「ポストISS」時代において、無人で安価に実験から製造物の回収までを可能にするELS-Rは、これまでにない新しいサービスモデルを提供します。
具体的には、ペイロード(荷物)を衛星に載せ、衛星をロケットで打ち上げ、人工衛星内で実験や製造などを無人で行います。大気圏に帰還(再突入)させ、海に落ちた衛星を船で回収し、顧客にペイロードを届けます。人工衛星の開発・打ち上げ・回収には高度な技術が求められます。
宇宙ビジネス参入は今がベストタイミング
再突入・回収技術を有する人工衛星は、国内ではJAXAによる数機のみで、民間で実施するのはElevationSpaceが初めてで、世界でもほとんど例がありません。
20年から25年後には宇宙で人が暮らせる環境が実現するといわれています。有人宇宙開発が実現した未来からバックキャストで考えた場合に、大気圏再突入技術の獲得が非常に重要となります。
ElevationSpaceは「誰もが宇宙で生活できる世界を創り、人の未来を豊かにする」ことをミッションとしています。小林さんは「もちろん当社だけでは実現不可能で、あらゆる産業が関わっていくことが重要です。すべてのビジネスが宇宙と何らかの関わりを持つ時代が訪れると考えていますので、ぜひ宇宙関連企業と連携してアクションを起こしていただきたい」と呼び掛けます。
宇宙ビジネスは急速に発展しており、既に年間2000台の人工衛星が打ち上げられています。「参入するなら今がベストタイミング」だからこそ、宇宙での実証実験の場を提供するだけでなく、宇宙ビジネスへの参入に迷われている方々に対して足元から支援していきたいとしています。