中小企業の課題にスタートアップの解決力でこたえる新たなミートアップイベント
「米沢農商工×IoT×スタートアップ」イベントレポート

米沢市は平成2017年12月20日、同市のグランドホクヨウで「第3回米沢市産学連携異業種交流会」を開催した。

このイベントは、「米沢農商工×IoT×スタートアップで地方創生」とテーマにしたものだった。
日本ユニシスグループでコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)のキャナルベンチャーズが米沢市に協力し、同市内農商工業者の成長や課題解決に向けて、新ビジネスを立ち上げる「スタートアップ」と呼ばれる新興企業との連携を模索した。

このイベントは、「地域の課題をどう解決するか」という視点から事業を考える、という先進的な取り組みとして注目を集め、80名を超える地元企業の関係者や経営者が参加した。農商工業者はもちろん、スタートアップにとっても刺激的な内容だった。

今回は「第3回米沢市産学連携異業種交流会」を主催した米沢市職員の三方と、イベントの協力をしスタートアップの紹介を行ったキャナルベンチャーズの浜田大輔氏にあらためて話を聞き、その感想や明らかになった課題を抽出。今後のイベントの指針や、同様の取り組みを広めていくきっかけを探る。

参加者は以下の通り。
高橋稔氏(米沢市 産業部 商工課長補佐 企業立地推進室長)
渡辺●●氏(同市産業部●●)
佐藤春樹氏(同市産業部 商工課企業立地推進室)
浜田大輔氏(キャナルベンチャーズ CFO)

画像: 左から、渡辺氏、高橋氏、佐藤氏。取材当日は「上杉雪灯篭まつり」

左から、渡辺氏、高橋氏、佐藤氏。取材当日は「上杉雪灯篭まつり」

講演ではない新たなスタイル

――それぞれ、どういう仕事をされていて、先日のイベントにかかわったか、自己紹介も含めて教えてください
高橋:現在、企業立地推進室長という立場で、市内企業と「スタートアップ」をはじめとするベンチャー企業の橋渡しにしたいと考え、この事業に参加しています。「異業種交流会」では司会進行を務めました。基本的には同じ課の佐藤が中心となったので、詳細は彼が説明します。

佐藤:私は高橋と同じ企業立地推進室所属で立地業務を主に担当しています。今の職場に配属される前に、山形大学の工学部に派遣されていたことがあり、大学の先生や事務方との面識があるため、産学連携についても担当しています。今回のイベントも両方を担当している立場からかかわりました。

渡辺:工業担当の渡辺です。地元産業とベンチャーのマッチングのような取り組みには、今回初めてかかわりました。「企業立地推進室」は、どちらかというと外からの誘致を行うのに対して、私たち工業担当は地場の企業の販路開拓や、新産業への移行支援を行っています。一方で、地元企業の展示会出展や大学との連携も支援しており、その一環として今回の「異業種交流会」に携わりました。

浜田:イベントのお手伝いをしたキャナルベンチャーズの浜田です。今回は、新ビジネスを開発し、ごく短期間に急成長が見込まれる「スタートアップ」と呼ばれる会社と、米沢市の事業者をマッチングするお手伝いをしました。

――佐藤さん。これまでの開催テーマや内容を教えてください
佐藤:米沢市の「異業種交流会」は、今回の2017年12月開催が3回目でした。
第1回は「企業立地」をテーマに開催。以前、自動車関係の会社を米沢に工場誘致したことがあり、自動車産業をさらに米沢に集積できないかなどについて話しました

第2回は「産学連携」をテーマに行いました。今年3月、当市の企業用地である「米沢オフィス・アルカディア」内に、山形大学の「有機材料システム事業化開発センター」がオープンします。このため、大学が地域企業との連携を目指しており、大学の先生方が5分程度のPRプレゼンを行うといった内容でした。

そして今回の第3回は一方的な講演ではなく、ディスカッション形式のマッチングイベントを開催しました。このため、日本ユニシスグループのコーポレートベンチャーキャピタルであるキャナルベンチャーズから「スタートアップ」を紹介いただき、連携創出を目指しました。

――第3回のスタートアップ紹介はどのような形で行いましたか
浜田:キャナルベンチャーズからスタートアップを紹介し、米沢の企業と4対4でマッチングを行いました。

画像: 企業が課題を説明し、スタートアップから解決策を提示した

企業が課題を説明し、スタートアップから解決策を提示した

佐藤:市内の企業には自社の持つ課題を出していただきました。これに対してスタートアップの皆さんからは自社の技術やサービスで、応えていただくような形で話が進みました。

浜田:行ったのは「ピッチセッション」と呼ばれる形式です。企業側が5分課題を解説し、それを受けてスタートアップ側が8分どのような解決策を提示できそうか提案しました。その後、課題を伝えた企業や、聴講している参加者である企業が、解決策に対していいと思えば「Like」、その技術と連携したいと思えば「Join」の札をあげます。会場で挙げられたほとんどは「Like」の札でした。シリコンバレーの場合は、「Join」の札でスタートアップの取り合いになるのですが、参加者も初めての経験だったせいか、そこまでには至りませんでした。

画像: 講演ではない新たなスタイル

課題を出せないという課題

――キャナルベンチャーズで声をかけたスタートアップはどのように選びましたか。東北エリアを意識するといったこともあったのでしょうか
浜田:秋田の企業を1社紹介しましたが、東北にこだわるより事前に米沢市内の会社からいただいた課題に合わせて、紹介するスタートアップを選定しました。

――第2回の主役、山形大学も参加しましたね
佐藤:山形大学自体がここ数年でベンチャーをいくつも立ち上げており、地域の企業との連携を重要視しています。このため、大学からは「自分たちがどのような研究・開発をしているか知ってほしい」との要望もありました。

――工業担当の渡辺さんは、どのように参加を呼びかけましたか
渡辺:工業担当からは、契約している専門職のコーディ―ネーターの方から、市内の製造業へ声掛けしていただきました。しかし、そこには問題がありました。

――どういったことでしょう
渡辺:製造業は、取引の際に機密保持契約しているケースが多く、自社が持っている課題をオープンな場で言いにくい。しかし、その中でも公開できる課題を見出し、共有していただいた企業もあり、これについては非常にありがたいと感じました。

たとえば、ある社員20名ほどのある町工場は、自社のデータ管理に非常にコストがかかっている、ということをイベントで発表しました。毎年システムの管理会社に何百万円という金額を払っているそうで「これはどうにかならないか」という経営的な課題を出していただきました。

浜田:「IoTによる省力化で人手不足を解消したい」「自社の強みを明確にして広報活動したい」など業種が異なっても、各社が共通に抱えているケースが多かったですね。そのような課題であれば、機密保持を気にせず、互いに持ち寄って話ができるのではないでしょうか。

画像: 課題を出せないという課題

――全体の進行をしていて、なにか感じられたことはありますか
高橋:イベントでは多くの質問が出てことがよかったです。また、観覧された企業からも、良い内容だったというお褒めの言葉をいただきました。非常にたくさんの質問が飛び交い、応えるのが大変ではないかな、と心配したほどです(笑)。

基本的知識の壁がある!?

――開催を通して、イベント自体の課題も見えてきましたか
佐藤:今回は企業側が課題を出して、それをスタートアップとともに話し合うという、初めての取り組みでした。当初、ダイレクトメールなどでお知らせしたのですが、文書では伝わらないことが多く、結局は企業を1社ずつ訪問し「こういう内容でやります」と説明して、理解を得ることにしました。

――どういった点が理解されにくかったのでしょうか
佐藤:まずは「スタートアップとは何ぞや?」というとこらから説明していくことが必要でした。呼びかけた企業には、スタートアップは企業としては未成熟ですが、社会貢献目指すことや、急成長を目指すために、非常に新しい技術で勝負していることなどを紹介しました。

浜田:我々ベンチャーキャピタル(VC)では、スタートアップと中小企業を区別しています。スタートアップの場合、何年後かにIPO(株式公開)やM&Aを目指すことを投資家と契約しているのです。彼らは期限が区切られているため、イノベイティブな事業や、革新的なビジネスや技術を持たざるをえないという状況にいます。

渡辺:私も含めて確かにカタカナに弱い部分があるので(笑)、そこは上の者に理解してもらうためにもしっかり説明できる準備をしたいですね。

佐藤:「ピッチセッション」なども、知らない人には難しい言葉ですよね。内部では「パネルディスカッション」のような形式と説明してしまいました。理解している側からすると「ピッチセッション」と言ったほうが楽なんですけどね(笑)。

浜田:確かに「ピッチ」って何だろうと思っちゃいますよね。

高橋:そういったことを、私たちも担当の部内や課内で共有していくことが課題ですね。

浜田:同様の取り組みをしていく自治体や企業では、こういった基本的な言葉の壁が同じように課題となるので、今回出てきた話は他のスタートアップ連携でも推進の一助になっていくはずです。

画像: 基本的知識の壁がある!?

連携をつなぐのは誰?

――イベントを終えてみて感じたことは
高橋:開催後に市内企業とスタートアップの方たちがつながっているそうで、これがなによりもうれしいです。また、マッチング参加者のほか、市内の企業から80~90人ほどの観覧者が来場したことにも「事業者は新しい取り組みに興味があるのだ」という手ごたえを感じました。

渡辺:イベントは、スタートアップと企業の出会いの場になったので、その点は非常に良かったと感じています。さらに、イベントがきっかけとなって、成約し、両者が協働していくことが一番重要で、私たちはそこを最終的な成果にしています。

佐藤:参加企業からは、課題を出していただいたのですが、先ほど出てきたように課題をうまく引き出せなかった所もありました。また、企業側も課題が見えていないケースがあり、もう少し準備をしていればと悔やむこともありました。私自身、企業との課題抽出は初めての経験だったので、キャナルベンチャーズの方にも同席いただき、ヒアリングを行えたことは心強かったです。

――イベント終了後は何か問い合わせなどはありましたか
佐藤:観覧した参加企業側が、抱えている課題を、イベントで話をしていたスタートアップに会って相談したいという流れです。

――登壇した参加企業側からはどのような反応がありましたか
佐藤:私がイベント終了後、参加企業を回ってお話を聞いています。スタートアップという存在を意識したことがなかったという方が大半で「その存在を知ることができてよかった」という声がありました。あとは「自分たちの課題をあらためて、確認できた」というお話も伺えました。

ただ、実際に連携ということになると、中小企業の立場としてスタートアップを「信頼できるのか」というところでためらいがあるようです。また、部分最適よりも、「自社の全体を見てほしい」という要望があり、スタートアップとの間をつなぐ企業や人が必要とも感じました。

――全体を見て、つなぐ人が必要との話が出ました。浜田さんはどう考えますか
浜田:全体を見るのは、ビジョナリーな(先見の明がある)経営者であることが一番ですが、外部でも同じように全体を見られる方がいて、スタートアップと連携していくことも重要です。

「信頼できるのか」という心配もよくわかります。キャナルベンチャーズでは、所属する日本ユニシスグループの一員として、彼らの経営に目を通し、必要があれば一緒に考えて軌道修正を行っています。こういった取り組みをしっかりお見せして、信用を得ることが重要ですね。

レベルアップ、そして「連携」へ

――テーマ設定などはいかがでしたか
渡辺:今回、イベントのテーマが「農商工とIoT」というもので、ちょっと広すぎたかもしれません。ただ、それぞれの話題が非常に盛り上がっていた点はよかったです。話題のやり取りに関しては、ファシリテーターの役割が非常に重要だということも分かりました。

佐藤:私には、農商工という異業種の連携、スタートアップとの連携に加えて、今注目されているIoTとの連携でなければ、新しいものが生まれないのではないかという思いがありました。しかし、時間的な制約や、業種が広すぎることで参加者が戸惑ってしまった面も否めません。次回はこれを調整し、もっとわかりやすくします。

高橋:参加者の中には、終わってから「なるほど、こういう会だったか」と納得されたという方もいました。何しろ、今まで経験のなかったタイプのイベントですから、これは仕方がないですよね。市長からも終了後「マッチングイベントだったのか」と言われました(笑)。

佐藤:「いいイベントだった」とも言っていましたよ(笑)。

画像: レベルアップ、そして「連携」へ

――今後の展開は
渡辺:今回行ったイベントは準備も含めて、私たちがこれまで行ってきた「BtoB」「製造業」へのフォローアップとは異なる未体験の仕事でした。中小の製造業は、大手の下請けとしてだけのビジネスが成り立たなくなっています。この中でスタートアップとの連携は、大きなチャンスの一つと考えています。出会いの場にとどまらず、フォローしながら次の事業を考え、そこから成果が生まれれば、さらにその次も見えてくるはずです。今後もキャナルベンチャーズさんにかかわっていただき、経過を見ながら成果につなげたいと考えます。

佐藤:商業、工業、農業などにかかわらず、今は人手不足や後継者不足という現状があります。農業はクワやスキを持ってやるものだという古めかしいイメージを持つ人がいまだに多いですが、実際には違います。こういった業種間や年代の壁を越えて、連携できるイベントをつくり、新しい農商工業を構築していくお手伝いをしようと思います。

浜田:今後、スタートアップへの理解に加えて、全体最適のトレンドなどもお伝えしていかなければならないと思いました。初回に両社を会わせて「さあ連携」というのは、一足飛びの部分があったのかなとも感じています。あとは毎回「スタートアップ」の説明はしっかりしないといけないですね(笑)。

――最後にキャナルベンチャーズの立場から、次にこんなことをやりたいというのは
浜田:イベントを終えて、1段階レベルが上がった状態になっていると思いますので、もう一度同じメンバーでこのイベントを開催したいです。次はもちろんマッチングまでを行いたい。今回も課題をたくさん出していただきましたが、次回はさらに本質的な課題に刺さるような解決法を提案していけるはずです。
イベントで伺った米沢市は、非常に活力とポテンシャルのある街でした。この力を生かすため、関係者とともに「連携」事業に取り組んでいきたいと思っています。

画像: 夜は幻想的な景色が広がる上杉雪燈篭まつり

夜は幻想的な景色が広がる上杉雪燈篭まつり

第3回米沢市産学連携異業種交流会
http://invest-yonezawa.jp/log/?l=445275

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