XR技術を使ったエンターテインメント体験の開発や提供を手掛けるティフォン株式会社。現在はエンターテイメント技術の転換期にあると考えるCEOの深澤研さんに、「ミラージュ構想」が目指すものや、これからのエンタメのあり方について伺いました。
佐渡金山にキャラクターが出現する「ISLAND MIRRORGE」
2021年4月からは、新潟の佐渡島にある歴史遺産である佐渡金山の坑道内で、「ISLAND MIRRORGE(アイランド・ミラージュ)」というMR体験を提供しています。
MRは現実空間の風景に、CGの映像を重ね合わせて表示できる技術です。「ISLAND MIRRORGE」では、中国のNreal社が開発する「NrealLight(エンリアルライト)」という眼鏡型のMRデバイスを使用しています。
佐渡金山の坑道の中をNrealLightをかけた状態で入ると、CGのキャラクターやCGの背景が現実の鉱山の風景と重なり合う形で表示されます。体験者はキャラクターに導かれるような形で坑道内を歩き回り、そこに出現するさまざまなミッションをクリアしたり、ストーリーを体験したりして、単に坑道を見学するだけとは異なる体験が実現できます。
距離を超えて世界をつなぐ「ミラージュ構想」
「ISLAND MIRRORGE」は、実際に佐渡金山に足を運んで体験するものですが、世界中どこからでも体験できるコンテンツとして、VR版の「ISLAND MIRRORGE VR」も提供しています。実際に佐渡金山に行かなくても、VRゴーグルさえあれば同じ世界観を体験できます。VR版の体験を通して佐渡金山を知っていただき、実際に訪れてMR版のISLAND MIRRORGEを体験するきっかけになればという思いで開発しました。
ただし、単なる導入のためのコンテンツにとどまらず、将来的には両者を連携させた世界を作っていきたいと考えています。深澤さんはこれを「ミラージュ構想」と呼んでいます。
ミラージュ構想では、現実世界での体験とメタバース空間での体験がシームレスに連携している世界を描いています。各地で体験コンテンツを提供して、その拠点同士やVR空間と連携させることで、一つの大きな体験型のプラットフォームを築いていくことを目指しています。将来的には日本だけでなく、世界のさまざまな都市に拠点を増やし、世界中どこからでも体験できるようにしていきたいと考えています。
MR時代のディズニーのような存在になりたい
ティフォンはウォルト・ディズニーをロールモデルにしています。ディズニーはサイレント映画の時代からアニメーションを作り、そこに音声が加わったり、映像がカラーになったりと、映像表現やメディア技術の進化に合わせて最先端の技術を使った新しいエンターテイメントを作ってきました。
これまでのエンターテイメント技術の進化は、主にスクリーンの上で行われていましたが、これからは空間全体がメディアになっていきます。エンターテイメントの作り方も大きく変わってくるはずで、今はパラダイムシフトの時期にあります。そういった新しい時代のディズニーのような存在になりたいというのが基本的なビジョンで、ミラージュ構想もそれを実現するためのものです。
現実空間の拠点での体験については、現在、大阪で実施する方向で話も進んでいます。まずは特定の場所でその場所に応じた特別な体験を作っていく形になりますが、いずれはMRグラスが普及し、皆がスマホを持つようにMRグラスを使って生活する時代が来ると思っています。
来年にはAppleなどからMRデバイスが登場して、それがスマホでいえば2007年にiPhoneが発売されたタイミングのようになると想像しています。スマホが普及していったときのことを考えると、そこから4〜5年かけてMRデバイスが普及していくのではないかと予測しています。
すると、特定の場所で体験するだけでなく、本当にいろいろな人がいろいろな場所から特別な体験ができる世界に変わっていくはずです。そんな時代が訪れる頃には、ティフォンの体験を世界中の人に届けられるように進めていきたいと考えています。