消費者ニーズや商環境の変化に対応するため、アパレルブランド・メーカーは迅速なビジネス変革が求められています。テクノロジーを活用したアパレル事業者向けの業務クラウド「PORTUS CLOUD」を提供するpark & port株式会社代表取締役社長の櫟山敦彦さんに、起業の経緯やサービスの概要を伺いました。
アパレルメーカー、ファッションテックでの経験を生かして起業
インターネットやWebに関心を持ち、大学では情報メディア系を専攻した櫟山さんは、好きなファッションに関わりつつ自分にしかできないことがしたいという想いからアパレルメーカーへ就職。インポートブランドビジネスの営業業務を担当しながら、得意のパソコンスキルを生かして社内の在庫管理やデータ分析など、ビジネス全体を把握するポジションでキャリアを積みました。
5年間の経験を経て独立後、インポートブランドの代理店ビジネスやウェブを含めたブランド向けのコンサルティングを営みながら、自分の好きなファッションを多くの人に届ける手法はないかと模索しました。そんな中、ファッションスタートアップとして成長していたファッションレンタルのエアークローゼット社に参画し、ベンチャービジネスからITサービス、組織、さまざまな経験をすることができました。
「だれもが⾃分のスキを⼿に取れる世界の実現」を掲げ、park & portを設立したのが2019年です。今までの経験をもとに、いろいろな商品が世の中に流通して、自分が好きな商品、自分がいいなと感じるものと巡り合える世界観を実現したいと思ったのが起業のきっかけです。
見えてきた企業の課題が新たなサービス開発のきっかけに
初めに手掛けたのは、断絶されていたメーカーと店舗をマッチング、最大の障壁であった取引の手間・制限を解決する仕入れプラットフォームPORTUS(ポルタス)です。タイミング悪く、リリースしたのは新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年で、同年4月には全国で緊急事態宣言が発令されました。店舗への休業要請や外出自粛などの措置は、対面販売を主とするアパレル店舗にとって大きな打撃となりました。ターゲットとしていた小規模店舗や個人経営ショップの売り上げが激減したことで、PORTUSも事業継続が厳しくなり約1カ月で休止を決断しました。
次の事業として2020年4月にリリースしたのが、オンライン展示会サービスのEXIV(エグジブ)でした。アパレル業界では、商品を製造するメーカーと販売する小売店とが異なる「製販分離」が一般的です。そのためメーカーは定期的に展示会や受注会を開催し、バイヤー向けに商品を展示・提案する必要がありました。しかし、コロナ禍で展示会が開催できず販売機会を逃してしまうという声がPORTUSでの出会った複数のメーカーから聞こえてきたことから、オンライン上で複数の画像や動画を掲載でき注文までワンストップでできるサービスをわずか1カ月弱で開発・リリースしました。
EXIVは外出自粛によるオンライン需要の高まりを背景に数か月で大きく成長しましたが、自粛が終わってしまえばオンライン展示会の需要が減ることは明確でした。次のビジネスを模索していた際に、ある投資家イベントに参画、「みんなが困っている本当の部分はどこなのかを追求したほうがいい」というアドバイスを受けたのをきっかけに事業を見直し、商品情報データを活用した業務支援クラウドのPORTUS CLOUD(ポルタスクラウド)へとたどり着きました。
一元管理されていない商品情報をデジタル化
仕入れプラットフォームとオンライン展示会という2つの事業に共通しているのは、「商品を登録する」工程です。しかし多くのメーカーではExcelやPDFで管理する程度で自社の商品情報を一元管理しておらず、商品を登録するために別途リストを準備しなくてはいけないような状況でした。
アパレルメーカーのあらゆる業務は商品に紐づくため、商品情報のデジタル化は業務全体のデジタル化につながります。アパレル産業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進みにくい理由として、業務の中心が商材であるためCRMを中心とした既存のツールでは、対応しにくい点が挙げられます。そこでDXを視野に入れ、商品管理・顧客管理システムにオンライン展示会の機能を統合した営業活動支援クラウドサービスとして2021年に「PORTUS CLOUD(ポルタスクラウド)」をリリースしました。