動画配信やZoom、Teamsなどビデオコミュニケーションが日常化している中、バーチャルカメラアプリ「xpression camera」は、新しいコミュニケーションツールとしても注目を集めています。AIによる動画制作技術(シンセティックメディア)の可能性について、株式会社EmbodyMe 代表取締役社長 吉田一星さんに伺いました。

従来のコンピュータグラフィックスとは全く異なるパラダイム

EmbodyMeは、ディープラーニングを用いた映像生成技術と、それを活用したスマホアプリ「Xpression」やバーチャルカメラアプリ「xpression camera」を展開しています。マネタイズとしては、コア技術だけを提供し、顧客企業のソフトウェアやハードウェアに取り込んでもらう形があります。広範囲な分野で応用できるので、協業して製品を作ったり、研究開発を行ったりしています。今後は顧客企業がより取り込みやすい形でパッケージ化したいと考えています。

「xpression camera」はβ版をリリースしており、企業とユーザーにサブスクリプションで提供する予定です。コロナ禍で人々はビデオコミュニケーションに依存していますが、今使われているアプリに対抗するのではなく、それら全てで使用できるプラットフォームを提供し、さまざまなアプリでバーチャルでコミュニケーションを取れるのが特徴です。

EmbodyMeは、AIで映像を生成する根幹となる技術の特許を取得しています。とても簡単な3Dモデルがあればそのままリアルな映像が作れる技術の特許です。従来のコンピュータグラフィックス(CG)技術でリアルな映像を作ろうとすると、毛の1本1本まで精緻に3Dモデルを作って動かし、肌の特殊な反射具合をシミュレーションしなければならないなど、膨大なコストがかかります。例えばディズニーのCG映画では、CGデザイナーだけで1000人近くが関わり、何百億という費用がかかっており、小規模スタジオや個人、テレビ局などが使うにはハードルが高いです。

EmbodyMeのアプローチはそれとは違って、とても簡単な形状をトリガーにして誰でもAIでリアルな映像を作り出せます。従来のCGとはパラダイムが違い、いずれ従来の技術を完全に置き換えるものです。その根幹となる部分の技術の特許を取得しています。

音声・テキストで動画を動かす未来

最近、中国や韓国では日本のバーチャルYouTuberとは違う盛り上がり方をしています。特に韓国はタレントと商品が紐づいており、タレントに不祥事があると商品も一緒にダメになるという事例が相次ぎ、タレントに依存せずバーチャル化を進めようという流れがあります。中国も、タレントそのもののバーチャル化が大きな流れになっています。

EmbodyMeの技術は世界でも類を見ないものなので、アジアだけでなく世界中の企業とやりとりしています。「xpression camera」はβ版の段階ですが、海外ユーザーが95%を占めています。
「現在、既にできている技術として、音声やテキストから動画を動かす技術があります。今後、より可能性が広がると思っています」と吉田さん。例えば文字をタイプするだけで広告動画ができるので、特にWeb広告の分野では、別バージョンの動画を簡単に作ってABテストをするなど、いろいろな活用ができそうです。

同社の技術を使えば、ビデオチャットのカメラが完全に不要になるので、音声だけで、子どもの面倒をみながらでも、ジョギングしながらでも、あらゆる状況でプライバシーを保ったまま、コミュニケーションが可能になります。

もう一つ開発を進めているのが、アバターの身体全体を動かすことができる技術です。今は上半身だけに動きが限られていますが、全身を使った多彩な動きができるようになります。ビデオチャットで現実にできないようなアクロバティックな動きでコミュニケーションが取れるようになれば、用途が広がります。最終的には、画像や動画を撮影しなくても、どんな人でも、人以外でも、AIで映像を生成できるようになります。

目指す世界観の実現に向けて

このようにEmbodyMeの技術によって、個人のクリエイターが莫大な制作費を使うこともなく映画作品を作ることができるようになります。近い将来には、バーチャルとリアルな世界が同じ空間で共存していくのが当たり前になるでしょう。誰でも簡単に制作できるだけでなく、新しいレベルの複雑さを導入した人体の能力と特性を再現することができます。

今後はAIやディープラーニングを駆使することで、CGの適性領域が格段と広がります。例えば、広告の世界ならメディアの特性やターゲットの属性に合わせたCGを簡単に作り出せることになります。またコンテンツとマーケティングと掛け合わせることなどで、さまざまな業界のビジネスが劇的に変わっていきます。まさに同社が目指す「誰もがAIで目に見えるあらゆるものを自由自在に作り出す世界を作る」という世界観が現実のものになるでしょう。

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