急病の子どもの一時的なケアと保育を行う「病児保育施設」は、利用手続きが煩雑で、認知度が低いために十分に活用されていません。産婦人科医でもあるCI Inc.(シーアイ・インク)代表取締役社長の園田正樹氏に、医師だからこそできる病児保育の課題解決への取り組みを伺いました。
産婦人科医から起業するきっかけとなった病児保育
産婦人科医としてのやりがいは感じていたのですが、「孤独な子育て」や「産後うつ」に苦しむお母さんたちを診ていて、「虐待」にもつながりかねない日本の育児環境を何とか変えたいと強く願うようになりました。そして、社会を変える何かインパクトのあることをしたい、もっと大勢の人を幸せにしたいと思い始めます。友人が子どもを預けるために利用していた「病児保育」の課題に直面したことが、「あずかるこちゃん」を開発するきっかけになりました。
お母さんたちにヒアリングを重ねていくと、病児保育施設は使いづらい、あるいはいつも満室でどうせ使えないという、ネガティブなイメージをもっていることがわかりました。子どもが急病の時に預けられなければ仕事を休まなくてはなりません。小さな子どもは病気にかかることが多いので、育児と仕事の両立は大変難しく、子どもを産み育てる女性たちのキャリアアップや社会進出に少なからず影響を及ぼしています。一方で、病児保育施設の煩雑な予約業務は保育士側の大きな負担でした。本来取り組むべき保育に専念できない環境なのです。
病児保育の現場を変えられるのは医療にも精通している自分であると確信し、子どもと育児に関わる全ての人が幸せになる仕組みづくりをしたいという信念のもとCI Inc.を立ち上げました。現在、スマホで病児保育施設の予約ができる「あずかるこちゃん」のサービスリリースに向けて開発を進めています。
病児保育の世界を変えるITプラットフォーマーに
施設全体の稼働率は約3割しかないのに対し、利用者が「いつも満室」だと感じる現実との間には大きなギャップがありました。このギャップの大きな理由には“使いづらい”という問題があります。使いたい人が使いたい時にいつでも使えるよう、施設と利用者をマッチングさせる病児保育プラットフォームの構築を手掛けることになります。アナログな予約方法と保育士業務をデジタル化し、施設情報を提供するためのポータルサイト開発に取り組みました。しかし、ヘルスケア分野の未熟なITリテラシーの現実に直面します。
保育士の負担になっていた電話問診業務を削減するために、医師の知識を活かしてネット入力だけで十分な情報を得られる問診票を完成させました。電話を使用しないフローで実証実験を開始しますが、現場で働く保育士は利用者との丁寧なコミュニケーションを大切にしているため、不安を払拭できずに頓挫してしまいます。ネット上の文字だけでは伝わらない直接の問診がないと不安で業務フローから外すことができなかったのです。これがきっかけになり、全てネットで完結する世界から、あえて問診に必要な電話は残し、施設側のタイミングで利用者と直接コミュニケーションが取れるサービス設計にたどり着きます。施設現場の願いを残し、保育士業務の軽減策も盛り込んだ現在の運用フローが完成しました。
デジタル化を急速に推し進めるのではなく、人的な側面を残し、人間味あふれるサービスを提供できる環境づくりのお手伝いができるのもこのシステムの特徴です。将来に向けてはさまざまな情報をデータ化して蓄積していく予定です。子どもの年齢、キャラクター、家族を含めた既往症、保育士との相性などを加味し、機械学習による最適なマッチングを可能にすることが目標です。また施設側の予約業務は段階を経て、最終的には完全になくしたいと考えています。