売り主から預かった中古住宅物件を、スピード優先でさばきたい仲介業者。これにより情報開示が不十分となり、後から欠陥を知った買い手が激怒……。不動産業界で頻発する、このようなトラブルに巻き込まれた方もいるでしょう

Non Brokers株式会社の東峯一真社長は、そんな状況を改善し「中古住宅売買を透明な世界にしたい」と、目下三つの柱を事業に据えて奮闘中。その原点には、起業後に味わった苦い教訓があります。

画像: 中古住宅売買を透明な世界に:Non Brokers株式会社

アナログ極まる「インスペクション」を改善したい

今年4月から、売買主に対してインスペクション(住宅診断)の説明をし、売買主が希望すればインスペクションを実施する業者を斡旋することが、仲介業者に義務付けられました。人口減に伴い空き家が1000万戸になろうとしている現在、安心して中古住宅が買えるようにと、国土交通省が後押ししています。

しかしインスペクションの作業は非常にアナログで、大変なものです。インスペクターといわれる調査員(既存住宅状況調査技術者講習を修了)が戸建てやマンションなどに赴き、建物のひび割れ、欠損などといった項目を調査し、調査結果を紙に記入します。欠陥が認められればデジタルカメラで撮影しますが、その枚数は1件あたり100枚を超える場合もあります。

「現場作業に約3時間。さらに帰社して、エクセルに入力し直す。また、家屋のどこを撮影したかを確認しながら写真を紐付けるのです」(東峯社長)と、作業完了まで膨大な時間を要していました。

Non Brokersの開発した「Rインスペクターズ」は、このような煩雑なプロセスを極限まで簡素化したアプリです。アプリ起動後、国土交通省「既存住宅状況調査方法基準」に準拠した調査項目をチェックします。「東面に3ミリのひび割れあり」といった問題が発見されれば入力し、アプリを起動しているタブレットなどでそのまま撮影、写真を自動で紐付けして添付。調査が完了すると、自動的に調査報告書が完成する仕組みです。後はクラウドへ送信するだけでデータとして管理されていきます。

東峯社長は、事業の柱を三つとしています。一つ目はこのインスペクションアプリで、対象はインスペクター。二つ目はインスペクション結果データをワンクリックで一元管理できる管理システムで、「今までは個人情報が入った報告書(PDF)をメールでやり取りしており、誤送信リスクもあった。また修正などの手直しも非常に面倒だった」という問題を改善。検査会社や瑕疵保険法人、リノベーション業者に使ってもらうことを目指しています。三つ目は、インスペクターのマッチングプラットフォームです。全国各地からのインスペクション依頼に、希望時間と住所を入力するだけで、最寄りのインスペクターが出動できる体制を構築しました。

中古自動車売買プラットフォームの苦い経験を糧に

東峯社長は不動産業界出身ではなく、以前は電化製品に内蔵されている基板設計用のCADメーカーに約10年間身を置いていました。サポート、営業、開発、すべての責任者を経験したのちに取締役に昇進。2015年に起業します。起業後に手掛けた中古車の個人間売買プラットフォーム(クルマフリマ)での経験が、不動産業界に目を向けるきっかけとなりました。

クルマフリマでは、オーナーの自宅に出向き、しっかりプロの目で整備状況を確認。買い主の安心を最大限にするため、バンパーの傷やブレーキパッドの厚みまで、すべての情報をWebサイトに公開していました。顧客からの反応は良かったのですが、ユニットエコノミクスが健全に保てず、ピボットを決断。「巨大産業で、情報の非対称性があり、アナログな業界」を考えた末に見出したのが、不動産でした。

まずは約1年間集中して業界を研究し、この道40年のベテランを採用するとともに、宅地建物取引業免許を取得し不動産業者になりました。

アプリ開発については「プログラマーとともに中古住宅まで訪れ、床下に潜り込み、何度もインスペクションしました」と、「現場ファースト」を徹底。これにより類似アプリの追随を許さず、利用企業は現在1000社を超す勢い。現在は三つのサービスでさらなる成長を目指しています。

「中古住宅売買前に、Rインスペクターズ」という文化をつくりたい

そんな東峯社長の当面の目標は「結婚が決まった人が『ゼクシィ』を利用する文化ができているように、『中古住宅売買前に、Rインスペクターズ』という文化をつくりたい」。

その追い風は吹いています。空き家が増え、家を売りたくても売れない時代はすぐそこまで来ています。買い主優位になり、いかに安心を届けることができるかが中古住宅流通の活性化にも影響すると感じています。中古車には車検がありますが、中古住宅は現状渡しです。車よりも家のほうが高い買い物で、さらに壊れやすいものです。中古住宅が今後主流になるなかで、買い主の安心を最大限にするために、インスペクションは文化になると考えています。

アメリカでは中古住宅の流通率が約9割を占め、その8割にインスペクションが実施されているといわれています。まだまだ伸びしろのある日本の中古住宅流通業界で夢の実現へ、「まずは信頼性を担保する仕組みを考えています。また、『インスペクター』という名称に硬さがあるので、リブランディングも必要です」と、しっかり将来を見据える東峯社長。ロジカルだけど熱い説明に、エネルギッシュさを感じました。

画像: 「中古住宅売買前に、Rインスペクターズ」という文化をつくりたい

This article is a sponsored article by
''.