第2回Digital Transformation Meetupが9月11日、静岡県伊東市の日本ユニシス株式会社 伊豆エグゼクテブ・センターで開催された。

そこで行われたパネルディスカッションでは、「デジタルトランスフォーメーション」を軸にした営業や人事、マーケティングの変化について、3人のベンチャーキャピタルが議論を深めていった。後半は、デジタルトランスフォーメーションという枠を飛び越えて、今後必要とされるビジネスパーソン像の話にも発展。個人として生き残っていくためのスキルは何か、どのように人材を育成していくかなど、幅広いテーマに及ぶディスカッションとなった。

パネリスト
株式会社ジェネシア・ベンチャーズ General Partner 田島 聡一 氏
KLab Venture Partners株式会社 代表取締役社長/代表パートナー 長野 泰和 氏
インキュベイトファンド 代表パートナー 本間 真彦 氏

モデレーター
キャナルベンチャーズ株式会社 保科 剛

デジタルトランスフォーメーションによる人事・セールスの高度化とSaaSの台頭

保科:人事、営業、マーケティングは、ほぼすべての企業に必要な機能ですよね。それらがデジタルトランスフォーメーションしていくことで、採用や営業のスタイルなども変わっていくはずです。まずはパネリストの皆様が、デジタルトランスフォーメーションに対して持っているビジョンや価値観を共有できればと思います。

田島:デジタルトランスフォーメーションは業務プロセスの効率化だけでなく、得られたデジタルデータの活用によって、ビジネスのROI最大化にもつながると考えています。例えば、人事評価クラウド「HRBrain」を活用することで、人事評価プロセスの効率化に加えて、人事評価内容がデジタルデータ化される。それにより、評価者・被評価者間の評価の乖離を極小化するだけでなく、評価の乖離を起因とする社員の離職を防いだり、適切なタイミングでの部署異動を検討できたりする、プラスアルファの効果が大きいと考えています。

長野:デジタルトランスフォーメーションが進むことでSaaS型のBtoBサービスが伸びてくると考えています。アメリカではすでにSaaS関連のスタートアップが非常に増えており、2年程度でユニコーン企業になるスタートアップも現れています。企業のデジタルトランスフォーメーションによりSaaS型のサービス導入が容易になりますので、日本でもSaaS型のBtoBサービスが増えていくだろうと考えています。

本間:いまの若い世代の人たちはいわゆる「べき論」では動かなくなっていて、共感や一体感が求められています。それに伴い、セールスのやり方も「インセンティブつけてガンガン売ってこい」というものから「みんなでラクして成果を出そう」という流れに変わっていっています。そうなるとセールスやマーケティング、人事といった領域がデジタル化を通して一体となり、高度化していくことになります。時代の流れとテクノロジーの流れが重なっているような感覚がありますね。

「顧客をつかまえる」から「顧客に選ばれる」セールスへ、「べき論」から「一体感」のマネジメントへ

保科:現場レベルの営業は変化しているのでしょうか。特に体育会系の営業会社はいかがですか。

本間:変わってきていると思います。厳しいは厳しいし、インセンティブで伸びているところもありますが、やっぱり理不尽なことを続けていたら維持できなくなりますよね。

田島:ビジネスへのインターネットの浸透により、ビジネスの手法がプッシュ型からプル型にシフトしていると思います。例えば、営業型組織の会社は、「いかにお客さまに選んでいただくか」ではなく、「いかにお客さんをつかまえるか」というカルチャーが根付いているケースが多いように感じますが、こういった会社がネットビジネスを立ち上げようとしてもなかなかうまくいかない。テクノロジーを活用して何かやろうとしたとき、「いかにお客さんに選んでもらうか」というプル型の発想で向き合わないと成功しないと思います。

本間:営業するうえではマーケティングも必須ですし、顧客に選ばれる基盤として自社の評判や社内のヘルシーな関係性も必要になってきます。自社の従業員をつなぎとめることができなければ、そもそも採用も難しいという空気感があるなと思っています。

長野:デジタルトランスフォーメーションによってコミュニケーションも変わってきていると感じます。対面よりもチャットで話したほうがフラットな意見に思えるとか、プレッシャーを感じずに済むとか、そういった非対面の良さがありますよね。それは社内におけるコミュニケーションでも同じことが言えますし、ヘルシーな関係を作るうえでも重要なことだと思います。

保科:5年後、10年後は、今お話しされたことが当たり前になっていくなかで、営業やそれを支える人事なども、価値観そのものが変わってくると考えなければいけないですね。

それでは、事業会社さんの取り組みについても伺えればと思います。会場は、どうお考えでしょうか。

会場:私たちはコールセンターやバックオフィスなどの人間系のオペレーションが主要な会社です。30年間右肩上がりで伸び続けているのですが、経営陣が今までの経験値で生きてきていて、「べき論」によって従業員やアルバイトへの負担が多くなっている状況にありました。この状況を打開するために、競合に後れを取りながらもデジタルトランスフォーメーションを進めている最中です。

これを実現するためには、取り組む体制や企業文化から変えていく必要があると感じています。メインの事業で一気にデジタルトランスフォーメーションを実現するのか、少しずつスピンオフしていくほうが良いのかは、悩ましいところです。

長野:「べき論」から置き換わる組織の目標管理手法として、OKR(*1)がちょっとしたブームになっていますよね。僕らの投資先もOKRを導入しているところは多く、実際すごくパフォーマンスを上げています。

一方で「べき論」でのマネジメントは今後AIで置き換えられていくと思います。これまでのルールベースではない新しい発想がどんどん出てくる組織になると、AIに置き換えられないですし、個々人の能力は足し算ではなく掛け算になっていくので、そこからさらに大きなアウトプットが出てくる。そこをデザインすることが経営であると考えています。

「起承転結」で考える人材育成モデル

保科:会場の事業会社さんの取り組みで、他に何かあるでしょうか。

会場:僕たちは「起承転結の人材育成モデル」というものをやっています。「起」が0から1を生んでいく人たち、「承」が1を100や1000にするために大きなお金を持ってこられる人、「転」はKPI設定やリスク管理をして事業計画をきっちり回す人、「結」はやり続けられる人ということで、これに沿った人材育成をしています。

これを企業に当てはめると、大まかには「起承」がベンチャー、「転結」が事業会社となります。「起承」が得意なベンチャーは事業会社による「転結」が必要ですし、その逆も然りということなのですが、これがまだうまく浸透していないと思うのです。僕自身の課題としても、いかにベンチャーと組んでいくかがポイントになってきています。

本間:僕がなんとなく思っているのは、大企業であれスタートアップであれ、一人の人間が副業などによって二つ以上のスキルセットを持つような時代になっていくのではないかということです。

そもそも、全体的なパイを伸ばせる社会ではなくなってきていて、経営者が機会を与え続けることが難しくなっていくと思うのです。一つの会社だけで満たされる時代が終わってきていると感じていて、そのなかで僕が期待しているのは、大企業の方が副業してくれること、あるいは外で遊んでくれることです。

「起承転結」の話で言えば、本業では「転結」をやっている方でも、他の場所で「起承」を行える。逆にベンチャーの中でも「転結」を学びたい人もいます。日本は「やるならやり切れよ」というプレッシャーが強いので、組織を飛び出してベンチャーを始めるのは難しいのではないかと思っています。それは今後も変わらないと思っているので、そうすると「中二階」みたいなものがあったほうが日本らしいかなという気がしていますし、それが副業という働き方なのかなと思います。

田島:大企業の中で「起承」ができる人を増やすという話で言うと、私の前職であるサイバーエージェントではその仕組みづくりがとてもうまかったなと思います。サイバーエージェントでは子会社がどんどんつくられるのですが、そこの社長には「雇われ社長」ではない自由な裁量が与えられるのです。こうすることでメンバーは「自分が社長なんだ」という圧倒的な当事者意識を持つようになります。任せるというのは任せる側のリスクもそれなりに大きいですが、任された人は本気で経営するようになりますよね。

個人が活躍し、スタートアップと事業会社の協業が発展する社会へ

保科:「デジタルトランスフォーメーション」というテーマから始まり、「起承転結」という人材育成の考え方やその取り組み、スタートアップと事業会社との関わりなど、盛りだくさんのパネルディスカッションでした。最後にパネラーの皆様からコメントをいただければと思います。

田島:人材育成に関して、印象的だった動画がありました。フィンランドの学校の授業の様子です。フィンランドは、世界でいちばん学力が高いみたいなのですが、学校では基本的に宿題がない。つまり子供たちのやる気に任せて、それぞれが興味を持つことを伸ばす教育をしているのです。それをフィンランドの教育委員会が推進している。

「起承転結」の人材育成もそれと近いかなと思っていて、個人の意志や主体性に任せ、信じるというように、抜本的なシステムチェンジが必要なのかなと思います。

長野:仕事のオーナーシップが外にあるか自分にあるかが、いちばん大きいと思っています。マネジメントとしては、どうやって従業員にオーナーシップを持たせて活躍してもらうかが大事なのではないでしょうか。

本間:これからはスタートアップと事業会社がうまく協業できるかどうかが大きなポイントになるので、どうすれば両者が仲良くなれるのかなと考えています。「起承」のスタートアップと「転結」の事業会社だと、どうしても生きざまが違ってしまうので、なかなか難しいテーマではあるのですが、そのきっかけがあれば面白いことができると思っています。

*1 OKR(Objectives and Key Results:目標と主要な結果)は企業と個人が向かうべき方向性とやるべきことを明確にする目標管理のフレームワークである。従来の計画方法に比べて高い頻度で設定、追跡、再評価する点が特徴。

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