なぜ世界で活躍する起業家はエンジニア出身なのか。日本のスタートアップを率いるエンジニア起業家の実態とその特徴とは。エンジニア起業家に投資し支援しているVCパートナーと共に、エンジニア起業家とのコラボレーションの在り方を探ります。

【登壇者】
 合同会社MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一さん
 キャナルベンチャーズ株式会社 代表取締役 朝田 聡一郎

日本のエンジニア起業家は少数だが、実績は大きい

朝田)欧米のスタートアップの多くはエンジニア起業家が率いていますね。

岩田)TikTokもZoomもTwitterもセールスフォースもプログラマーだということを日本の人たちにも知ってほしい。それによって、エンジニアとして仕事をしている人たちが、自分も起業出来るかもとか、もう少し法務やマーケティングを身につけたら、企業の中でまた違う役割が出来るかもと思っていただきたい。

朝田)日本のエンジニア起業家についての調査結果をご紹介ください。

岩田)昨年、過去5年間にマザーズに上場した204社を対象に、社長がエンジニアの経験があるかどうかを調べました。全体の16.7%がエンジニア社長でした。上場時の時価総額が400億円を超える企業に限定すると、割合が2倍(33.3%)に増えています。この独自調査の結果からも、「エンジニアがより大きいIPOに結びつく」という仮説を私たちは持っています。

画像1: 日本のエンジニア起業家は少数だが、実績は大きい

朝田)エンジニア社長が時価総額を伸ばしているというデータもあるんですね。

岩田)上場時の時価総額(IPO価格)の平均値を、エンジニア社長の場合とそれ以外の場合を比較すると2.6倍でした。例外的に大きい会社もあるので、念のために中央値を取ったとしても1.8倍、非常に有意な差が出たと思っています。

画像2: 日本のエンジニア起業家は少数だが、実績は大きい

なぜ日本にはエンジニア起業家がまだまだ少ないのか

岩田)MIRAISEを創業する時に、エンジニアとアントレプレナーというキーワードで検索したところ、海外では「技術者として経験がない場合でもテックカンパニーを作れるんですか」とか「エンジニアじゃなくても起業できるんですか」という質問が多くて、日本だと逆に「エンジニアでも起業できるの?」ってなってしまうと思うんですけど、特にテックの場合はエンジニア起業家のほうが向いていることがわかりました。

朝田)日本でもエンジニア起業家の絶対数が増えてもよさそうなのに、16.7%でとどまってるのはどうしてでしょうか。

岩田)一つには初期の資金を得られなくてその先に進んでいけない。ポテンシャルの高い起業家でエンジニア力が強かったとしても、それを見抜いてサポートしなければ先に進めないので、私たちはそこを解決したいと思っています。

朝田)そもそも学校教育の違いもあるような気がするのですが。

岩田)外資系に勤めていた時、理系と文系という言葉がアメリカ人に全く通じなくて、「それって本が好きな人とパズルが好きな人の違い?」と質問されました。工場で物を作る人たちをしっかり育てて、それをサポートする事務方の人はまた別で効率よく育てるという、ハードウェアの時代の考え方なんですね。
今はソフトウェアが主流なって、経営と技術の区別がない、技術がわからないと戦略が練れない時代になってきているので、そういう分け方を考え直さなければいけないと思います。

異なる領域と思われていたものが既存領域の主流となる時代

朝田)ここからは本題に入って、あらゆる環境が目まぐるしく予測不可能な時代になってくる中で、エンジニア起業家がどういった場面で活躍してくるのかについて伺いたい。

岩田)これはぜひお伝えしたい。主軸の事業とのシナジーを考えてDXを行うと思いますが、これまで世の中で起きてきた大転換点を考えると、全く関係なさそうなところが既存領域に入ってきて主流になっていくことが結構ある。
例えばSkypeは電話の会社ではありません。電子メールはどんなに長く書いても、どんなに遠くに送ってもタダなのに、電話だけは長く話したり、遠くに掛けたりするのは高い、だったらメールと同じテクノロジーのレイヤーに音声通話を移動すれば無料になるんじゃないかという考え方から始まっている。一見関係ないようなことでも、もしかしたら活用次第で大きく変わることもあります。

朝田)例えば金融領域においても、金融出身の人がフィンテックをやっているわけではない。技術を持って金融の中に飛び込んで、大きく金融をディスラプトしていこうという人たちもいる。

岩田)欧州最大のフィンテック企業のWiseの創業者は、Skypeのエンジニアだったので、全く関係ないところから来ている一例です。

朝田)コロナで世の中のデジタイゼーション、デジタライゼーションが進んだわけですが、今後web3とかブロックチェーン、メタバースの世界も、異なる領域と思われていたものが主流になるという話に近い。

岩田)web3は関係ないと思っている人は気をつけないといけません。組織運営に関わってきますし、あらゆる活動が金融に接近してきています。民主主義とも関係してきますし、バズワード的に思っているかもしれませんが、自分たちとの接点を積極的に考えていくべきです。

朝田)世界が分断されている中で、web3とかメタバースの世界が当たり前になってくる。エストニアは政府がそういう仕組みを持っていると聞きます。

岩田)エストニアは政府の仕組みがオープンソースで作られたブロックチェーンでできているんですよ。人口が少ないこともあるんですが、世界初の電子投票をした国でもあります。ロシアから独立した国で、常にまた攻めてこられるという危機感があって、物理的な国土が侵されたとしても、デジタル空間にエストニア人としてのIDを持っていることで「国」を守ろうという考え方がベースとなって、電子政府化が進んだという背景があります。

スタートアップの手法「小さく、速く、多く」が肝要

朝田)事業会社とエンジニア起業家とのコラボレーションに関して、アドバイスをいただけますか。

岩田)皆さんDXという名のもとに、既存の事業×ソフトウエアをやっておられると思うんですが、あまりバズワードに引っ張られることなく、大局を見ていくべきでしょう。その中でスタートアップのやり方が参考になると思います。

「小さく、速く、多数回す」、これとセットで「仮説と検証のサイクルを高速に多数回す」ことです。一生懸命リサーチして統計を取った結果をみんなで合意して、やるぞ、失敗は許さないぞってなるよりは、小さいものを何度も何度もやって、アジャイルの考え方で、みんなが失敗を許容する。そこで何を学んだのかを重視し、ディスカッションができるような文化形成をしていくことが大事だと思います。

朝田)「エンジニア起業家は最適なロールモデル」で、新規事業を作っていくためにもエンジニア起業家の素養を取り入れていかないといけない。

岩田)「エンジニア起業家的な人員」ですね。技術的なことだけではなくて、プロジェクト全体に関わるという意識を持って取り組むようなエンジニアをチームに入れていくことです。

朝田)事業会社が気をつけないといけないことを教えてください。

岩田)エンジニア起業家が思いついたことを提案した時に、事業会社にあまり知識がないと、理解が深まらずに、本業とすごく近いところにしか手を出せなくて、なかなか進まないと思います。

IPS細胞の山中先生もおっしゃっておられるが、自分の研究成果を実際に使えるようになるまですごく時間がかかる。私たちとBIPROGYさん、キャナルベンチャーズさんとで、スタートアップの「死の谷」における架け橋となっていけたらいいなと思っています。

朝田)事業会社のアセットやリソースと、エンジニア起業家の先端的な技術や深い知見を合わせることで、大きな新しい価値を生み出せる。その中で、MIRAISEさんの果たす役割はどのようなところでしょうか。

岩田)事業会社がスタートアップを全部網羅するのは難しい。私たちは投資を目的にしていますから、ベンチャーキャピタルとして幅広いレンジで初期のエンジニア起業家をカバーしています。彼らが取り組んでいる技術情報などの「ナレッジ」獲得、またスタートアップの「ソーシングエンジン」として、そしてそこから得られた「ノウハウ」の情報源として私達をぜひ活用していただきたいと思います。

画像: スタートアップの手法「小さく、速く、多く」が肝要

テクノロジーに精通したエンジニア起業家とのコラボレーションが世界を変える

朝田)エンジニア起業家は「PDCAを最速で回して数多く挑戦し、解像度の高い事業を創る」ことを使命とし、事業会社は「社会課題の解決に向けて、社会的インパクトの大きい事業を創る」ことを使命としています。
この2つの歯車を回すために、MIRAISE、BIPROGY、キャナルベンチャーズがハブとなって、大きな歯車を回していって、日本の未来のためにDXを実現していくことが必要だと思います。
最後に岩田さんから、今日の視聴者にアドバイスやこれからのヒントをお願いします。

岩田)「エンジニア起業家」は私たちが勝手に作った名称なんですけど、理系・文系とか、大企業・スタートアップとか関係なく、自分たちで課題を解決できるんじゃないか、それを実現するために自分は何ができるか。エンジニアなら自分の技術を使い、足りないスキルは獲得し、課題解決の姿勢を持ってほしいです。それがソフトウエア活用と相まってDXが実現すると思います。

朝田)ありがとうございます。今日のセッションが、スタートアップと新規事業を作ったり、イノベーションを一緒に起こしたりしていく時に、エンジニア起業家という視点もあることを、頭に留めておくきっかけになればいいと思います。
ご視聴ありがとうございました。

画像: テクノロジーに精通したエンジニア起業家とのコラボレーションが世界を変える

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