「ぴんぴんころり」とは、人生の最後まで寝たきりの期間なく元気でいること。こんなユニークな社名を持つ株式会社ぴんぴんころりでは、シニア女性によるご家庭サポートサービス「東京かあさん」を提供しています。代表取締役の小日向えりさんに、起業の経緯やサービスの特徴について伺いました。

普通のおじいちゃん、おばあちゃんが生き生きと働ける世界を目指して

小日向さんは、2012年に歴史アイドルとして活動していた頃、二足のわらじとして歴史グッズ通販サイトの運営を始めました。その後、80歳まで現役で働いていた祖母が、仕事を辞めた途端に元気がなくなり、ケガで入院してしまった経験から、高齢者にとって「働くこと」の重要性を強く認識し、2017年に株式会社ぴんぴんころりを設立しました。

第1弾としてローンチしたのは、「ユニプラ」という50歳以上の方向けのスキルマーケットサービスでした。しかし、ハイスキルな方や知名度がある方に依頼が偏ってしまい、創業趣旨とは異なってしまったため短期間でピボットし、現在のご家庭サポートサービスへと転換しました。そして、「第二のお母さんが持てる、おせっかいなご家庭サポート」というコンセプトを掲げて「東京かあさん」事業を開始、半年ほどの実証実験を経た後、正式にサービスをローンチしました。

「東京かあさん」は、家庭力の高いシニア女性シニアが家事をサポートしてくれるサービスです。1時間2300~3300円(税別)で利用できるリーズナブルさと、利用者・ワーカー間の仲介を運営スタッフが行うのが特徴です。現在、「東京かあさん」を継続利用しているのはおよそ500世帯、登録しているお母さん(ワーカー)は累計約2000名にまで増えています。

AIと人間の協働によるマッチング

「東京かあさん」のサービス名は、都会での第二のお母さんという位置づけが一目で伝わるように設定されました。これは、従来の家政婦とは異なり、雇用主との関係が上下関係になるのではなく、家族的であり、血縁関係にとらわれずに頼りになる存在であることを示す、サービスのコンセプトを端的に表現しています。

サービスが軌道に乗り始めた時点で、小日向さんはビジネスに専念するためにタレント業から引退し、365日「東京かあさん」のことだけを考える生活をスタートしました。

メインターゲットは、家事や子育てにかける時間を捻出するのが難しい共働きの子育て世帯です。利用者とワーカーのマッチングには、AIを活用して初期の照合を行い、その後人間が最終的な仲介を行う仕組みが採用されています。

利用者に対しては、まず利用目的や抱えている課題を詳しくヒアリングし、AIと人間の両方が最適なお母さんを見つけ出します。このサービスは、「勝手にやってください」というスタンスではなく、「おやコンシェルジュ」と呼ばれる人間が利用者とワーカーの間に立ち、1カ月間の調整と信頼関係の構築を支援することで、ミスマッチングを最小限に抑えるように設計されています。

「家事も育児もOK」が強みに

近年、共働き夫婦や単身世帯が増加しており、料理や掃除などの負担を軽減する家事代行やベビーシッターの市場は合わせて約1.5兆円、将来的には約3.5兆円にまで拡大すると見込んでいます。

大手企業やIT企業の新規参入など数多くの競合サービスがある中で、他社との差別化になっているのが家事も育児も対応できる点です。これは他所でもありそうでないサービスで、「東京かあさん」の大きな特徴です。

一般的に家事代行サービスでは年齢を限定せずにワーカーを募集します。家事と育児を網羅的に経験した方ばかりが採用されるわけではないため、両方のサービスを提供しようとすると研修負担が増加します。そのため、コストや効率を考えると、掃除だけ、料理だけ、シッターだけと、いずれか一つに特化してサービスを提供することになります。

一方、シニア女性の多くは育児の経験があり、料理や掃除の経験も豊富な人が多いため、多様なニーズに対して比較的柔軟に対応できるのが強みだといいます。さらに、市場の大きさに対して事業者数が追いついていないことに対しても、小日向さんは商機を見いだしています。

(後編へ続く)

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