筑波大発のスタートアップとして人工衛星向けビジネスを展開する株式会社ワープスペースは、通信という観点から、今後拡大する宇宙ビジネスをリードしていくことを目指しています。衛星・地上間だけでなく将来的には月・地球間の通信まで視野に入れた開発を進める同社の展望について、CTOの永田晃大さんに伺いました。

宇宙空間でデータを正確にハンドリングできるのが強み

ワープスペースの特徴は、地球低軌道衛星に通信回線を提供するための中継衛星軌道として、中軌道を選択している点にあります。従来、低軌道は地球に近いというメリットがあり、静止軌道は地上から見て静止して見えるというメリットがあるため、衛星の打ち上げではそのいずれかの軌道を選ぶのが主流でした。

低軌道に中継衛星を配置する構成だと、地球全域をカバーするためには、多くの衛星が必要なためコストがかかる上、衛星から地上にデータを中継する際に多数の中継衛星を経由するため通信の遅延が発生します。中軌道であれば1回の経由で、遅延なくデータを地上に届けられるのがメリットです。また、静止軌道に中継衛星を配置する構成だと、低軌道衛星との距離が遠すぎて通常の通信機では対応できず、特別に大きな通信機の搭載が必要です。そのため、中軌道が最もデータ中継に適した軌道だと考えられています。

永田さんは「ワープスペースの強みは、宇宙空間という特殊な空間でデータを変質させずに正確かつ即応的に中継できる技術力です。この技術を応用すれば、地球を周回する人工衛星だけでなく、月や火星の宇宙機や飛行士との通信頻度もあげられます」と将来の可能性について述べました。

光通信衛星3基体制によってほぼリアルタイムでの通信サービスを提供

今や小型衛星は多数開発され、衛星画像は地図や天気図だけでなく、交通渋滞の把握や船舶の航路確認、農業での土壌分析など、さまざまな産業・分野で活用されています。世界的にも光衛星通信市場は拡大傾向にあり、2027年には約4660億円規模にまで成長すると予測されています。光通信により高速・大容量・高解像度でデータを送信できるようになることで、AIによる分析精度の向上など地球観測産業がより進化すると考えられています。

永田さんに今後の展望について尋ねたところ、「2024~2025年にかけて最初の光通信衛星を打ち上げてサービス提供を開始、翌年には残り2基を打ち上げ3基体制で運用する予定です。3基体制によって、広範囲でほぼリアルタイムでの通信サービスが提供可能になります」とのご回答がありました。

画像: 光通信衛星3基体制によってほぼリアルタイムでの通信サービスを提供

衛星間の通信から月・地上間の通信までカバーすることが目標

ワープスペースでは、第一世代として光中継衛星を中軌道に3基配置する計画です。地球観測を行う人工衛星に対して光通信回線を提供し、中継衛星から地上までは電波通信でデータを中継して地球観測衛星事業者から通信料を得るビジネスモデルです。

その後は需要の増加に合わせて中継衛星を数年かけて増加させていき、エリアを拡大していく予定です。まだ新しい技術で実績がないため、宇宙空間での光通信に可能性を感じてくれる地球観測衛星事業者に先行利用してもらいながら、光通信の価値向上に取り組みます。

さらに先を見据えると、地球から月までの間(シスルナ空間)の通信ネットワークを光通信で構築するところまで視野に入れた開発を進めています。2024年に有人月面着陸を目指すNASAのアルテミス計画をはじめ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)など、国際的に月探査が活発に行われている状況が背景にあります。ワープスペースでは地球と月を繋ぐ通信システム実用化に向けた検討業務をJAXAより受託し、実用化に向けて必要不可欠となるキー技術の研究開発から、通信システム全体の概念検討まで幅広く技術開発を進めております。スタートアップや政府の研究プロジェクトなどとの協業も積極的に進めながら、宇宙ビジネスに不可欠な通信インフラ実現を目指します。

最後に永田さんに今後の抱負や方針をお聞きすると次のような力強い答えが返ってきました。
「地球外生命の発見が大きな目標です。そのために宇宙経済圏を広げていくことが重要であると考えています。2027年の段階で、ワープスペース1社で全ての宇宙圏をカバーできる通信網を構築することはできません。そのため関連する企業が連携しながら業界自体をまず成長させていく必要があると考えています。ワープスペースでは、同じく宇宙の通信を変革しようとしている事業者や研究者との共働、世界中の様々な分野の事業や産業との連携、そして各国政府機関や研究機関との協力を通じて、民間として世界初の衛星間光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の構築を図ります」

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