キャナルベンチャーズが主催する「Digital Transformation Meetup(DTMeetup)」は、スタートアップや事業者同士が深い議論を交わすことでビジネスの活性化を目指す定期交流イベントです。2024年2月28日(水)に麻布台ヒルズにて開催されました。

「新たな局面を迎えるDX」をメインテーマに、企業が直面する課題と機会を探るとともに、実践的なソリューションを持つスタートアップを紹介し、交流の機会を提供しました。前編のAI(人工知能)のパートに続き、後編ではCX(カスタマーエクスペリエンス)パートの注目スタートアップ2社、Sprocket、TieUpsの講演を紹介します。

登壇者
株式会社Sprocket代表取締役 深田浩嗣さん

変化する時代に問う「顧客のことが見えているか?」

株式会社Sprocketは、Webサイトやアプリ上で顧客に対してOne to Oneコミュニケーションを提供するCX改善プラットフォーム「Sprocket(スプロケット)」を提供しています。
代表取締役の深田浩嗣さんは、顧客心理を解明し、理想的なオンライン体験を提供するために必要なことについて紹介しました。

画像: 変化する時代に問う「顧客のことが見えているか?」

デジタルトレンドは急速に進化し、特にAI時代において、顧客が求める体験(CX)は日々変化しています。その一つとして、「情報を探す」という行為が受け入れられなくなってきています。従来のWebサイトでは、ユーザーが自分のペースで必要な情報を探すセルフサービス形式が評価されていました。しかし、現在では、事業者側から積極的に情報を提供しなければ、顧客は行動を起こさない傾向があります。

しかし、オンラインでは顧客の表情や感情を直接読み取ることはできません。その代わり、データやアクセスログの分析により、顧客の行動を推測することが可能です。しかし、顧客の行動は理解できても、その背後にある感情までは把握することは困難です。

例えば、ECサイトのデータ分析で、「ショッピングカートで多くの顧客が離脱して、購入に至らない」という課題が明らかになることがあります。データから顧客が離脱する「行動」は把握できますが、「なぜ離脱するのか」というインサイトまでは理解できません。

このような状況に対処する最善の方法は、顧客に対する何らかの施策を実施することです。クーポン配信、チャットボット、チュートリアルなどさまざまな施策を実施し、その結果を観察することで、顧客の感情を理解することが今の時代に適したアプローチだと考えています。顧客が何を求めているのかを推測し、仮説を立てて施策を実施する。その後、顧客の反応を観察し、検証することで、PDCAサイクルを効果的に回すことが重要です。

より良い顧客体験を提供するためのオムニチャネル展開も支援

私たちは、理想的な顧客体験を提供するためのサービスとしてSprocketを提供、これまで400社以上の導入実績があります。専任のコンサルタントが一連の流れをサポートし、CX改善の好循環により成果が創出され続けるグッドスパイラルを生み出します。

SprocketはWebサイト・アプリなどのオンラインだけでなく、オフラインでの顧客体験の改善も支援しています。近年、多くの小売企業が、あらゆるチャネルを統合するオムニチャネル戦略を進めており、オンラインとオフラインのデータ連携が重要になっていることが背景にあります。

例えば、実店舗をもつECサイトで、特定の顧客セグメントに対する施策を実施した結果、店舗での購入が4割増加するという結果が得られました。Sprocketではオフラインのデータをシステムに取り込むことができ、オンラインデータとの連携が可能です。店舗の来店実績がある顧客にだけその店舗のニュースをWebサイトで表示することができます。

企業からの要望に応じて、データを活用し、顧客がオンラインとオフラインの両方で適切に行動を起こせるように検証するという取り組みを通じて、顧客の成長を支援しています。

ビジネスプロセスを支援するBPaaS(Business Process as a Service)企業として

私自身は20数年間インターネット業界に在籍しており、その魅力を感じ続けています。インターネットが広く使われるようになり、最近では新たな変化が見られます。私たちは、顧客の変化を追いかけ、それを自社のサービスに反映させることを目指しています。

私たちのサービスはSaaS(Software as a Service)という言葉で紹介されますが、それだけでは足りないと感じています。そこでソフトウェアだけを提供する企業ではなく、ビジネスプロセスそのものを提供するBPaaS(Business Process as a Service)企業として位置づけ、データ収集から分析、施策立案、実行まで一気通貫でサポートするプラットフォームを提供していきます。

登壇者
TieUps株式会社代表取締役 小原史啓さん

「クリエイター・ファン・企業のタイアップ経済圏」を実現する

TieUps株式会社は、「クリエイター・ファン・企業のタイアップ経済圏」をビジョンに掲げ、クリエイターと事業会社をつなげる事業を行っています。代表取締役の小原史啓さんは、クリエイターを活用したビジネス展開について紹介しました。

画像: 「クリエイター・ファン・企業のタイアップ経済圏」を実現する

かつて、ブログを書くことが恥ずかしいと言われていた時代から、今では多くの人がSNSで情報を発信しています。生成AIを使ってコンテンツを作ることが格段に容易になり、これからはさらに映像などのコンテンツ制作に関心を持つ人口が増えていくと予測されています。

そのような誰もが何かに貢献できる環境の中で、私たちは企業や組織を応援するファンからサポートを受ける応援経済や貢献経済を作ることを目指しています。

最初にリリースしたサービスは、クリエイターポートフォリオサイト「lit.link(リットリンク)」です。SNS、HP、商品販売ページなどの複数のリンクを一つのページにまとめることができる無料のブランディングプロフィールツールで、2022年には「日経トレンディ Z世代トレンド 2022ヒット大賞」を受賞しました。サービス開始から3年間でユーザー数は約230万人を突破、うち約20%は海外からの利用となっています。

230万人のユーザー基盤を活用して次の挑戦へ

私たちの次の挑戦は、lit.linkのユーザー基盤を活用したビジネス展開で、クリエイターが大勢集まっている状態から、仕事の受発注が可能な状態へと展開を広げていくことです。

注目したのは、ブランドや製品のファンで「報酬よりも自分の好きなブランド・製品に貢献したい」と考える人の存在です。彼らのモチベーションは金銭ではなく、そのブランドが大好きなのでやりたいという熱意です。

第1弾として、クリエイターと企業のコラボレーションを促進し、クリエイターをアンバサダー化して共にファンを育てる企業向けプラットフォームを運営しています。流れは非常にシンプルで、lit.linkが保有する230万のユーザーに対して企業とコラボレーションしたい人を公募します。その上で、システムが自動的に該当者を育成し、最終的にはアンバサダープログラムに認定して金銭以外のインセンティブを提供して活躍してもらう流れです。

このような仕組みが求められている背景には、広告費の高騰があります。そのため多くの企業では広告に頼るよりも顧客をアンバサダーとして育成し、広告費をかけずとも自社の製品・ブランドを紹介してもらいLTV(顧客生涯価値)を伸ばしていこうとしています。

私たちは単なる顧客ではなくファンを育成する「FRM(Fan Relationship Management)」というコンセプトを提案し、企業を支援してくれるファンを育成するフレームワークを展開しています。

Z世代からの支持が強み

私たちの資産はZ世代を中心とした若年層のユーザーです。lit.linkのメインユーザーは6割近くがZ世代(12歳~26歳)です。彼らに向けたオープンコンテストやアンケート、コミュニティ形成などを行えることが私たちの強みになっています。また、lit.linkの顧客データとSNSデータの紐づけをして、ユーザーの行動をより詳細に理解することも可能です。

    
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キャナルベンチャーズ駒木敬からのメッセージ

「人間が想像できるものは必ず実現する」

最後にイベントの締めくくりとして、キャナルベンチャーズの駒木が、テクノロジーの劇的進化、労働人口の大幅な減少など大きく社会が変革する中で、企業が取り組むべきことについて話しました。

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今回ご参加いただいたスタートアップの方々は、どこもビジョナリーでクリエイティブと実行力を兼ね備えたチームであり、これからの新しい社会の未来像を感じ取ることができたのではと感じています。

今世の中はおよそ以下の4つの視点で大きく変わろうとしています。

1.気候変動と環境問題
もう言わずもがなですが、クライメイトクロックによるとこのままいけば、地球が以前の地球に戻れなくなるまでの猶予は後5年と言われており、今後の企業活動は単なる経済成長だけがKGIとはなり得なくなってきています。

2.労働人口の大幅な減少
日本においては社会が成熟し、少子高齢化社会により2030年には就労者人口は800万人弱も不足し、各企業・自治体においても業務を大きくDXするか、何かを抜本的に変えなければ早晩社会が成立し得なくなります。

3.技術革新がもたらした製品の供給過多と消費者の意識の変化
産業革命以降の技術革新により、単純にはモノが売れなくなってきている中、これからの企業の活動は、一方的にモノを売るのではなく、志を共にする人のことを思い、その人のことをより深く知り、そして共に成長していくことが求められてきています。

4.テクノロジーの劇的進化
1990年代のインターネットの登場以降、技術革新は指数的に加速していますが、特に今日紹介したAIやCXに加え、ロボティクスをはじめとするテクノロジーの登場は、これまでの業務や仕事のあり方を非連続的に変革する技術になってきています。

今後5年から10年で、これら4つの潮流が四重奏のワルツのように複雑に絡み合い、おそらく私たちの社会はこれまでに見たことのない形で大きく変わっていくでしょう。

そんな中で今私たちに必要なことは何でしょうか? これはよく他のVCとも話すことですが、私が思うにそれは「自らの頭で考え、今ない未来を自分たちで創造していくこと」です。

SF作家のジュール・ベルヌの名言で「人間が想像できるものは必ず実現する」という言葉がありますが、今日ご紹介させていただいたスタートアップもふくめ、これからの社会の変革を実現する技術の萌芽は実はもうそろってきています。後は、今ない未来を想像する力と、スタートアップと事業会社を組み合わせてできる未来の創造。これに関しては、ぜひキャナルベンチャーズでご支援させていただければと思います。

画像: 交流会の様子

交流会の様子

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