

テキストや画像、動画といった表現手段が広がるなかで、声だからこそ伝わるリアルさやその人らしさに価値を見いだす動きが注目されています音声ライブアプリ「Wacha」は、匿名で利用でき、共通の「好き」を軸にした交流と収益化を実現しています。同サービスを提供するCoeto株式会社代表取締役の湊健二さんに、創業までの経緯を伺いました。
創業初期の企業で起業の原点を形づくる
湊さんが起業を意識したのは大学生の頃でした。当時、注目を集めていた現役の学生だけで経営していた学生ベンチャー企業を先輩から紹介され、インターンとして働き始めます。入社当時は社員5名の創業初期で、少人数体制のなか事業の現場に深く関わることになりました。
業務は想像以上に多忙で、週5日フルタイムで勤務することや泊まり込みで仕事に打ち込むこともありました。営業から関西支社の立ち上げまで幅広い役割を担い、事業を成長させるための思考と実行を実地で学びました。この経験は湊さんの財産になり、起業への原点となります。自ら意思決定を行いながら事業を前に進める経験を重ねるなかで、将来は自ら起業し、一から事業を立ち上げたいという志向が次第に明確になっていきました。
事業と組織の両輪を重視する視点を養う
学生ベンチャー企業での経験を通じて、湊さんは企業経営には「事業と組織の両輪が不可欠」であると実感しました。起業を見据えるなかで、事業づくりだけでなく、組織の在り方についても体系的に学びたいと考えるようになります。
大学卒業後は、組織づくりに強みを持つ企業で経験を積むことを志し、株式会社アトラエに入社しました。同社では新規事業の立ち上げに携わる一方で、社内の制度設計や新卒採用まで多岐にわたる経験を積みます。
採用という人材の入口から、定着や育成、アロケーションなど幅広く関わるなかで、企業成長を支える組織の仕組みについて理解を深めていきました。また、湊さんが関わった組織力向上プラットフォーム「Wevox」は事業として着実に成長し、拡大フェーズを経験しました。
コロナ禍を機に「オンラインで孤独を解消したい」と構想
湊さんが起業を具体的に考え始めたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大で社会環境が大きく変化した時期でした。人との接触が制限されるなか、オンラインで孤独を和らげるサービスの必要性を感じ、2020年9月に「誰もが人とつながっている社会を創る」というビジョンのもとCoetoを創業しました。
当時、アメリカでは音声SNS「Clubhouse」が急速に利用者を伸ばしていました。音声を通じて人が集う場が生まれている状況を踏まえ、湊さんは声を起点にした「居場所」の可能性を検証していきます。試行錯誤の末に誕生したのが音声ライブアプリ「Wacha(ワチャ)」です。
実証を重ねるなかで、多くのユーザーが匿名で参加し、プロフィール画像にも写真ではなくイラストを用いていることが明らかになりました。音声のみでつながる環境では、顔や実名に縛られないことが心理的な安心感につながり、もう一人の自分として参加できる点が価値になると捉えました。
こうした考えから、「Wacha」は匿名で利用できるようにしました。さらに、配信者(ライバー)に対するインセンティブ制度を導入することで、継続的に活動できる環境を整えました。その結果、独自のつながりが生まれていきました。
多くの人に価値を届ける事業モデルを志向
湊さんは、少数の顧客から高額な対価を得るよりも、多くの人に広く価値を届ける事業を志向していました。そのため、BtoBではなく、生活者が主体となるBtoCやCtoCの領域に可能性を見いだしました。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって対面での交流が制限されるなか、収録型コンテンツではなく、リアルタイムで声を通じてつながれるライブ配信を重要視しました。さらに、匿名で顔を出さずに配信できるようにしたことで、参加への心理的ハードルを下げ、多様なライバーの参入を後押しします。
こうして誕生した「Wacha」は、若年層を中心に利用が広がりました。ライブで自己表現を行うことに親和性のある世代に受け入れられ、オンライン上の新たな居場所として機能していきます。長引くコロナ禍で学校に行けない、友人と会えない若い世代にとって、孤独やストレスを和らげる場となっていきました。
社名であるCoetoには、「声」と「誰か」をつなぎ、「声」を通じて新たなコミュニケーションを生み出すという思いが込められています。誰でも参加でき、誰でもつながることのできる「Wacha」によって、ぬくもりのあるコミュニケーションが溢れる世界を目指しています。
(後編につづく)


