

動画配信市場において、AIがキャラクターを操作する「AI VTuber」にいち早く商機を見いだし、多様な事業を展開しているのが株式会社Pictoriaです。AIキャラクター経済圏の構築を目指すスタートアップとして、どのようにコンテンツ創造に取り組み、なぜAI VTuberを事業の中心に据えてきたのでしょうか。代表取締役CEOの明渡隼人さんに話を伺いました。
自身の強みを最大限に生かす選択肢としてエンタメビジネスで起業
小学校高学年からオンラインゲームに親しんできた明渡さんは、インターネットを通じて、自分の知らないところで世の中が目まぐるしく動いていることを実感するようになりました。中学生の頃に読んだレイ・カーツワイル著『ポスト・ヒューマン誕生――コンピュータが人類の知性を超えるとき』では、2045年にAIが人類の知能を超える「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来が予測されており、その内容は明渡さんに大きな衝撃を与えました。
この体験をきっかけに、東京やシリコンバレーといったテクノロジーの発信地で活動しなければ、和歌山県出身の自分は時代の流れから取り残されてしまうのではないかと考えるようになります。高校卒業後は東京に出て、進歩し続ける世界を自分の目で確かめたいという思いを強めていきました。
大学3年時には、カリフォルニア大学バークレー校への半年間の交換留学を経験。その後、2社でエンジニアインターンに取り組みました。こうした経験を経て、大学在学中の2017年12月、エンターテインメント領域に特化した株式会社Pictoriaを設立します。事業領域をアニメやゲームに絞ったのは、自身が熱心なファンとして培ってきた知識や感覚があったことに加え、これらの産業が将来的に世界規模の巨大市場へ成長すると見据えていたからです。
成長を見据え、VTuber開発へと舵を切る
創業当時、エンターテインメント領域で最も注目を集めていたテーマが、バーチャルYouTuber(VTuber)でした。配信者の動きをCGキャラクターに反映して動画を配信するスタイルで、2016年に活動を開始した「キズナアイ」をはじめ、多くのVTuberが人気を獲得していました。また、「ホロライブ」を運営するカバーや、「にじさんじ」を展開するANYCOLORといった大手事務所も既に存在感を示しており、明渡さんもこの領域で新たな価値を生み出せると感じていました。
Pictoriaはアプリ運営などの受託事業からスタートし、創業から半年後には自社事業に着手します。まずはVTuberのライブイベント運営に取り組みましたが、想定していたほどの収益には結びつきませんでした。続いて、ユーザー投稿型のVTuber紹介メディアを立ち上げ、ユーザー数は順調に伸びたものの、ベンチャーキャピタルからは「メディアでは一定の規模にはなるが、上場を見据えるのは難しいだろう」と指摘を受けます。この助言をきっかけに、既存事業の延長ではなく、より短期間でスケール可能なビジネスモデルへの転換を検討するようになりました。
2019年3月、Pictoriaは新たにVTuber開発事業へと舵を切り、自社VTuber「斗和キセキ」をデビューさせます。しかし翌年、新型コロナウイルス感染症の拡大により屋外収録が制限されるなどの影響を受けました。一方で、外出自粛を背景に動画配信コンテンツの視聴が増え、VTuber市場全体としては追い風が吹く状況となりました。
しかし、事業は思うほど軌道に乗らず、改めてビジネスモデルを見直すことになりました。2020年11月にはAIを活用したVTuberとして「紡ネン(つむぎ ねん)」をリリースします。これを機に、事業の主軸を人間が演じるVTuberから「中の人」を必要としないAI VTuberへと本格的にシフトしました。
「ユーザーと共に育てる」という発想への転換
AI VTuberとは、CGで制作されたキャラクターをAIが制御し、動画投稿やライブ配信を行う存在です。人が演じる従来のVTuberとは異なり、生成AIが自律的に会話や振る舞いを生み出す点が大きな特徴となっています。人間はキャラクターの世界観や方向性を設計し、具体的な配信内容や発話はAIが担います。
「紡ネン」をリリースした2020年当時は、ChatGPTの登場以前であり、AIが人間と自然な対話を行うには多くの技術的制約がありました。Pictoriaはその不完全さをあえて強みに転換し、「言葉を紡ぎながら進化するAI」というコンセプトを掲げます。ユーザーのコメントや関与を通じてキャラクターが成長していく体験そのものを、価値として提示しました。
明渡さんは、「紡ネン」の企画・運営にあたり、既存のYouTuberやVTuberとの差別化を図るため、AIだからこそ可能な挑戦的な企画にこだわってきました。その象徴が、2022年のゴールデンウィークに実施した、10日間で合計240時間に及ぶ連続ライブ配信です。生身の人間では不可能なこの企画は大きな注目を集め、同時視聴者数は2000人を超え、最終的には50万人以上が視聴するなど、大きな盛り上がりを見せました。
(後編に続く)




