

地域コミュニティアプリ「ピアッザ」は、現在、全国76の自治体、110以上のエリアで展開し、累計19万人を超えるユーザーに利用されています。これまで、広告・メディア事業を中心に地域に関わってきたPIAZZA株式会社は、地域SNSを活かした街の再開発市場におけるエリアマネジメント事業を拡大しています。代表取締役 矢野晃平さんに起業までの経緯と新事業の背景について伺いました。
「街にパブリックスペースを作りたい」
矢野さんは、幼少期から青年期までの間に4カ国を移り住みました。新しい環境に順応することに悩んでいた高校時代に出会ったのが、芦原義信氏の著作『街並みの美学』です。そこで紹介されていたイタリアの広場「PIAZZA(ピアッザ)」の概念に心を動かされたことをきっかけに、人が自然に集まり、出会いが生まれるパブリックスペースをつくりたいと考えるようになりました。この思いを実現するため、カナダのMcGill大学で土木工学部設計科に入学し、構造力学と都市計画を専攻します。
大学卒業後は日本に帰国、街づくりに関わる仕事を志し、ディベロッパーやゼネコンへの就職を目指しました。しかし、海外経験の多さを評価してくれた証券会社に入社することになります。その後、オンラインゲーム会社へ転職し、私生活では結婚や子どもの誕生など、人生の転機が続きました。
二人目のお子さんが事故に遭い、家族だけでは乗り越えられない困難に直面した際、支えてくれたのは同じマンションの住人でした。それまで名前もよく知らなかった人たちが自然と手を差し伸べてくれた経験に触れ、学生時代に抱いた「人と人が出会える広場の大切さ」をあらためて実感したといいます。
原点となる『街並みの美学』のPIAZZA (ピアッザ)を社名に
当時矢野さんが勤めていたオンラインゲーム会社では、仮想空間で多くの人が集まり、ゲームを楽しむ様子を目の当たりにしていました。その光景を見て、矢野さんは「オンラインでこれだけ人がつながれるのだから、リアルな場でも人々が集まれる空間を作りたい」と強く感じ、2015年5月にPIAZZAを設立しました。
社名には、ご近所同士の出会いや仮想空間でのつながり、学生時代から抱いていたパブリックスペースへの思いを込めました。すべての原点となる『街並みの美学』を表す名前としてPIAZZAを選んだのです。
創業当時の思いについて矢野さんは、地域の人々をつなぐ広場の必要性を強く感じていたことを振り返ります。経済合理性が優先されるほど消えてしまう空間を、何らかの形で維持したいという思いがあり、パブリックスペースの重要性は今後さらに高まると確信していたと語ります。
定着していく街と地域のデジタルコミュニティ
地域SNS「ピアッザ」は、地域の中で人々が支え合いながら生活する交流をITの力で発展させたツールです。街と地域のデジタルコミュニティとして、ユーザーは暮らしに関する情報のやり取りや困りごとの相談、不用品の譲り合い、近所のコミュニティへの参加などを通して、地域の人と手軽につながることができます。
他のSNSサービスと大きく異なる点は、利用範囲を地域で区切っていることです。子育て関連の情報や物の譲渡、店舗情報などは地域性が重要であり、こうした特徴がユーザーからも好評を得ています。また、地域のフリーペーパーなど紙メディアをデジタル化し、情報の訴求力を高める事業も手掛けてきました。
新型コロナウイルスの流行により、広告収入の減少や運営施設の休館など、短期的には売り上げが落ち込む場面もありましたが、人々に地域の大切さを改めて認識させる機会となりました。その結果、「ピアッザ」は地域SNSとして着実に定着していったのです。
また、PIAZZAはアプリ提供にとどまらず、子育て支援施設や地域イベントスペースの企画・運営、また不動産事業者と連携したエリアマネジメントまで手がけています。オンラインの情報発信とオフラインの場づくりを組み合わせることで、持続的な地域コミュニティの醸成を目指しています。
まちづくりプラットフォームとして事業を拡大
民間企業だけでなく自治体も、地域SNSの利点や非同期で地域とつながる重要性に注目し始めました。コロナ禍を経て、地域住民や足元商圏の役割の重要性を再認識する動きも広がっていたと矢野さんは語ります。
こうした社会の変化の中で、PIAZZAも転機を迎えます。単に地域に情報を発信するだけでなく、地域SNSの運営や広告、メディア活用といった活動を通じて、地域の課題や魅力に直接関わる機会が増えていきました。そして、地域SNSとエリアマネジメントの知見を組み合わせ、まちづくりプラットフォームとして新たな切り口から街に関わる事業を拡大していくことになります。この取り組みにより、地域の魅力を高め、住民や商店、訪問者のつながりを深める新しい街づくりの形が具体化していきました。
(後編につづく)



