国内でのロケット打ち上げ数を伸ばし、宇宙産業を活性化~AstroX(後編)

AstroX株式会社 代表取締役CEO 小田翔武

商用衛星はさまざまな分野で活用され、打ち上げ数も年々増加しています。ところが、日本は衛星の打ち上げをほとんど海外に依存しています。この課題を解決すべく、ロケットの国産化を目指しているのがAstroX株式会社です。代表取締役CEOの小田翔武さんに、事業の詳細と今後の展開について伺いました。

ますます高まる小型ロケットの需要

人工衛星は通信や観測、物流などさまざまな分野で活用され、今後も打ち上げ数は増加していくと見込まれています。技術の進歩によって衛星が小型化したことから、小型ロケットの需要も高まっていますが、日本ではそのニーズに応えられていません。

現状ではロケットの打ち上げの多くを海外に依存しており、過去20年間で国内から海外に流出した資金はおよそ1000億円に上るといわれています。このままでは国内の宇宙産業が十分にスケールできず、IT産業と同じ状況に陥る可能性があります。自国でロケットを保有できなければ、国際競争に勝つことは難しい状況です。

スピード感や適応力が強み

宇宙開発を手掛けるスタートアップやベンチャー企業は、研究者が自身の開発した技術を事業化しているケースが多いといわれています。一方で、小田さんはもともとIT関連の出身です。小田さんは「私が研究者ではないため、ペインポイントを解決するためには何が必要なのかという観点からブレイクダウンして必要な技術や事業を取捨選択しています」と話します。このプロセスがAstroXのスピード感や適応力の源泉となっています。

さらに、AstroXのエンジニアの6~7割は非宇宙産業から転職しており、多彩なバックグラウンドを持つ人材が集まっています。宇宙産業は通信、機械、電子、情報などさまざまな技術分野を融合させる必要があり、まさに総合格闘技のような領域です。そのため、多方面の経験を持つ技術者が連携することで、柔軟かつ迅速な開発が可能になっています。

南相馬市と連携協定を結び、宇宙産業の成長と地域経済発展に貢献

AstroXは、宇宙産業の企業誘致を進める福島県南相馬市と連携協定を結び、同市の宇宙産業の成長や地域経済の発展に向けて協力しています。AstroXが本社を南相馬市に置く理由は主に3点あります。1つ目は、震災後に広く確保された太平洋沿いの土地を活用できること、2つ目は復興予算を財源として宇宙やロボットなど最先端技術への投資が行われていること、3つ目は南相馬市の意思決定のスピードと実行力です。

小田さんは、3つ目の特に行政職員の方の迅速な対応が決め手になったと説明しています。南相馬市ならベンチャーのスピード感に、柔軟に一緒についてきてもらえると確信しました。さらに、震災で失われた地域から再び産業を生み出し、世界に向けて復興の象徴として発信できることに大きな希望と可能性を感じたのです。

AstorX資料2
AstorX資料3

また、AstroXは民間事業者とJAXAが共同で新たな宇宙関連事業を創出する研究開発プログラム「J-SPARC」にも参加しており、11月にはJAXAパートナースタートアップにもなりました。JAXA宇宙戦略基金の活用も視野に入れています(※)。こうした取り組みにより、地域と連携しながら新しい宇宙産業の展開を進めています。

(※)JAXA宇宙戦略基金
JAXAに設置した基金を活用し、民間企業・大学等が複数年度(最大10年間)にわたって大胆に研究開発に取り組めるよう支援を行うもの。

サブオービタルロケットの成功へ

AstroXは、2026年にRockoon方式を用いて、宇宙空間に達するサブオービタルロケットの開発に成功することを目標にしています。このロケットは地球を周回せずに地上へ戻る設計で、さらに2029年には衛星軌道への投入を成功させる計画です。国内でこれらの目標を達成できれば、日本の宇宙産業は世界に誇れる技術基盤を手に入れることになります。

小田さんは、宇宙に物を運びたいすべての人を顧客と位置づけ、ロケットの打ち上げだけでなく、衛星の開発まで含めた垂直統合型の事業展開を構想しています。M&Aも活用しながら、衛星の基幹部分である衛星バスシステムや衛星サービス事業など、関連事業の拡大を目指しています。

小型衛星を迅速かつ低コストで高頻度に打ち上げられるAstroXの技術は、海外への打ち上げ依存を解消することに直結します。国内で衛星を打ち上げられるようになれば、海外流出する打ち上げ費用に歯止めをかけることができるだけでなく、為替リスクや輸送コスト、技術者の流出といった問題も解消されます。

国内における宇宙産業の発展は、産業全体に好循環をもたらし、経済効果の拡大にもつながります。AstroXはRockoon方式を切り札にして、日本の宇宙ビジネスを一大産業に育てるための土台を着実に築き上げようとしています。