心不全患者にとって、日常生活の自己管理や病状の早期発見は極めて重要ですが、遠隔でのモニタリングが難しい現状があります。これに対し、ウェアラブルデバイスでモニタリングして病状悪化を検知するサービスを開発しているGeneral Prognostics, Inc.(以下GPx社)。共同創業者兼COOの松岡俊祐さんに、サービスの詳細や開発の背景について伺いました。

血液検査をせずに心不全の患者の病状の増悪を予知・検知

GPx社の共同創業者には、ビジネススクール卒業後にヘモグロビンA1c(HbA1c)をスマホで検知するデバイスを開発し、FDA(アメリカ食品医薬品局)の認証を取得した経験を持つメンバーがいました。この知見をもとに、松岡さんたちは当初、血液バイオマーカーを用いた心不全患者向けの医療機器デバイスの開発を目指していました。

このアイデアを医師に相談したところ、複数の医師から「血液検査をどの程度の頻度で行う必要があるのか」という指摘がありました。そこで、患者に最適な血液検査のタイミングを通知するアルゴリズムを構築するアイデアへと発展します。さらに、医師に再度提案を行った際、「アルゴリズムで体の異変を検知できるのであれば、血液検査自体が不要ではないか」という意見を受けました。

これをきっかけに、松岡さんたちは、血液検査をしないで心不全患者の病状悪化をいち早く予知・検知できるアルゴリズムでのモニタリングの開発に取り組むことになりました。

病院の経営安定にも貢献

アメリカでは、30日以内の再入院に対し、病院が保険を申請できないというペナルティ制度があります。例えば、心不全の患者が30日以内に再入院すると、その費用は全額病院が負担する仕組みです。さらに、心不全患者の再入院率が高いことが、病院経営にとって深刻な問題となっています。

GPx社の遠隔モニタリングデバイスは、患者の病状悪化を早期に予知することで、再入院を未然に防ぐことが期待されています。この技術により、病院側も再入院に伴うコスト負担を軽減できると同時に、患者の安全性を確保することが可能になります。

このような状況下で、患者にこのアルゴリズムを使用してもらうことで、病院はプログラム医療機器として保険申請が可能になります。患者の状態を簡単にモニタリングできる上に、急変による再入院を防ぐことができるソリューションとして注目を集めています。

血液データと連動したアルゴリズムを開発しFDAの認証取得へ

現在、GPx社はFDA認証取得を目指して治験を進めています。約250人の患者にウェアラブルデバイスを装着してもらい、心拍、歩数、音声、体重などのデータを収集するとともに、血液検査を並行してアルゴリズムの検証と精度向上を行っています。具体的にはNT-proBNPという血液バイオマーカーを測定しています。NT-proBNPは心臓が増悪を起こすと放出されるホルモンで、アメリカの心不全の診断ガイドラインでもNT-proBNPによる診断が推奨されています。

アルゴリズムが血液データと連動していることで、信頼性が高く、埋め込み型デバイスと同等の精度を実現しています。心不全の患者は高齢者が多いので、操作性を追求し、継続のしやすさにも力を入れています。将来的に、特定のデバイスに依存せず、さまざまな機種に対応できることも目指しています。

患者の安心と豊かな日常を目指して

さらに、松岡さんは心不全以外の病気への展開も視野に入れています。NT-proBNPは肺動脈性高血圧症をはじめ、他の病気のバイオマーカーとしても利用されています。また、心不全患者に多く見られる合併症である腎不全への応用も検討しています。腎不全のバイオマーカーであるクレアチニンを用いたアルゴリズムを開発することで、心不全と同様のモニタリングが可能になると期待されています。

日本国内でもこの取り組みが進んでおり、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的医療技術研究開発推進事業(産学官共同型)」に採択されました。2025年4月からは、国立循環器病研究センターで臨床試験が開始される予定です。

松岡さんの目標は、心不全患者の日常をより安心で豊かなものにすることです。その熱意はアメリカ国内だけでなく、日本を含む世界へと広がっています。これからもGPx社の技術革新は、多くの患者と医療現場に貢献していくでしょう。

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