心不全患者が抱える「急変の不安」と「再入院のリスク」を軽減するため、ウェアラブルデバイスを活用した新しいモニタリング技術が注目されています。患者の日常を遠隔で見守り、病状悪化の兆候を検知するサービスを開発しているのが、General Prognostics, Inc.(以下GPx社)です。同社の共同創業者兼COOである松岡俊祐さんに、その背景とビジョンについてお話を伺いました。

ハーバードでMBA取得後、震災後の日本のために貢献したいと帰国

松岡さんは、父親の仕事の関係で幼少期から日本とアメリカを行き来しながら育ちました。アメリカで卒業を控えた高校3年生のときに、日本を旅行した高校の恩師から日本文化の魅力や日本人の素晴らしさについて聞きました。しかし、その話を十分に理解できず、日本について何も知らなかったことに恥ずかしさを感じて、日本の大学に進学することを決意しました。

大学在学中は体育会アメリカンフットボール部に所属し、心身ともに鍛えられたといいます。卒業後は日本の大手電機メーカーに就職しましたが、当時の日本経済は低迷しており、会社の業績も右肩下がりの厳しい状況でした。一緒に頑張ってきた優秀な同僚たちの姿に刺激を受け、「もっと勉強して実力をつけたい」という思いから、アメリカでのMBA取得を目指します。そして、ハーバード大学でMBAを取得した年に、日本で東日本大震災が発生しました。ニュースで流れる映像に胸が締め付けられ、日本が大変なときに自分にできることはないかと帰国して、外資系コンサルティング会社の日本支社に就職します。

コンサルティング会社での多忙な日々の中で、3人の子どもに恵まれ、プライベートでも大きな変化が訪れます。また、子どもの1人に発達障がいがあることもわかりました。このままでは子育ての負担が奥さんにかかり過ぎてしまうと感じ、家族の幸せと子どもの療育を優先するために、2014年にアメリカへの移住を決めます。その後、ヘルスケア系の企業やスタートアップで経験を積み、ハーバードビジネススクールの同窓生とともに立ち上げたのが現在のGPx社です。

モニタリングが難しい心不全の患者の増悪をいち早く予知・検知

GPx社は、心不全と診断された患者の病状が悪化するのをいち早く予知・検知できるアルゴリズムを作成し、ウェラブルデバイスでモニタリングするサービスを開発しています。

心不全の患者は、日頃から服薬、食事制限、血圧や体重の自己管理が必要で、日常生活や社会生活に多くの制約を抱えています。それにもかかわらず、心不全で入院した患者の25~30パーセントが30日以内に再入院するという報告があり、退院後の病状安定化と再入院の防止が大きな課題となっています。特に重症化する前に適切なタイミングで医療介入を行うことが重要ですが、モニタリングの難しさがその障壁となっています。

現在、心不全患者のモニタリングには、体内にデバイスを埋め込む方法がありますが、手術のハードルが高く、重篤な患者が主な対象です。また、血液検査によるモニタリングは頻繁に採血が伴い、コストもかさみます。さらに、病院が患者本人に直接連絡して体調を確認するというアナログな方法も広く行われていますが、これらはいずれも限界があります。心不全の進行を防ぐには、軽症の患者に適切なケアを提供するための遠隔モニタリングが有効ですが、その実現には十分な手段が整っていませんでした。

コロナ禍に起業「世界中の患者、介護している方を助けたい」

松岡さんが起業を決意した背景には、祖母が心不全で闘病していた実体験があります。心不全は病状が急変しやすく、松岡さんの祖母も常に入院への不安と隣り合わせで生活をしていました。その姿を目の当たりにした松岡さんは、患者が安心して暮らし、人生を楽しめる環境を作る方法を模索し続けていました。

「祖母が不安を抱えて生きていたことがとても心苦しかったです。これから高齢者が増える中で、心不全患者も増加するでしょう。私たちのデバイスを通じて、患者が自分の体に自信を持ち、生き生きと生活できる世界を実現したい」と松岡さんは語ります。

さらに、コロナ禍で受診控えが広がり、心不全患者の重症化が増加している状況を知ったことが、起業の意欲をさらに高めました。松岡さんは「世界中の患者や介護者を助けたい」という強い想いを抱え、2020年4月、コロナ禍の最中にGPx社を創業しました。

(後編へ続く)

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