急速な成長が見込まれているメタバース市場で、アバターが身に着けるデジタルファッションが注目を集めています。日常の現実世界でもデジタルファッションを楽しめるSNSアプリ「flah(フラー)」を開発した株式会社harmonyの代表取締役CEO原島篤史さんに、起業の経緯や製品のコンセプトについて伺いました。

音楽×空間×テクノロジーの可能性を探る

音楽大学で作曲を専攻していた原島さんは、作曲だけでなく、何かを構成し創り上げていくことが好きだったといいます。音楽が空間をデザインする力に着目し、そこにテクノロジーを掛け合わせた新しい可能性を探ってきました。学生時代に大学の新キャンパス開設プロジェクトに携わった経験が、この思考を深めるきっかけになったといいます。

「音楽は空間を波動で満たすことです。音楽には空気の振動で、空間をデザインしたり、雰囲気をデザインしたりする力があります。そこに、テクノロジーを掛け合わせれば、新たな面白さが生まれると考えました」と原島さんは語ります。

卒業後は大学職員として新キャンパスのプロジェクトに携わり、完成を見届けました。その後、映像やWeb関連の仕事を経て、コロナ禍でオンライン授業やデジタル化(DX)が必要になった出身大学の付属校で教鞭を執ることになりました。

メタバース空間での音楽授業や、デザインシンキングやロジカルシンキングを取り入れた「イノベーションリーダーシッププログラム」の授業を通じて、「日本では個性を抑えがちな風潮がある」と再認識したそうです。その経験から、「周囲を気にせず、もっと自由に自己表現できる社会を作りたい」という思いを強く抱くようになりました。

起業を支える2つの柱「社会実装」「自己表現」

原島さんの起業には2つの柱があります。1つ目は、空間デザインとテクノロジーを日常生活に組み込むことです。人が自然に受け入れるためには、「衣食住」といった日常の基本的な要素と関連させることが重要と考えました。中でも「服」は、社会的なつながりや自分の所属性、自己表現に直結するため、社会に実装させるのに大きな可能性を感じました。

2つ目の柱は、誰もが自由に自己表現できる環境をつくることです。服は、自己表現の手段である一方、無意識のうちに自分らしさが反映されるものでもあります。その日の気分が表れることもあれば、気分を変える力も持っています。このような「服」との親和性を強く感じて、デジタルファッションを日常に溶け込ませる道を模索しました。

原島さんは、さまざまな事業のディレクションに携わっていく中で、社会実装がいかに困難であるかも実感してきました。実験段階であっても、ビジネスとして成り立つ前でも、可能性や成長の余地があるアイデアをどう世の中に届けるかを真剣に考えました。そして、それが起業のきっかけにもなったのです。

アプリをかざすことでその人が着ている服が映し出される

これまでも、猫になれるフィルターのようなアプリは存在していました。また、フィルターを使えば誰でも簡単に服を着たように見せることはできます。しかし、そうしたデジタルの服は、現実世界で身に着ける「自己表現としての服」とは大きく異なっていると原島さんは感じています。

原島さんが考えるデジタルファッションは、必ずしも服の形に限りません。服以外のものをまとった自己表現も含まれています。例えば、音楽を視覚的・感覚的に体験する新しい自己表現として「音楽を着る」というアイデアや、「アートを身にまとう」という発想も想定しています。これまで研究してきた音楽、空間、テクノロジーの融合が、「自己表現」や「自分らしさ」を表現する新たなファッションの形と結びつき、デジタルファッションという事業構想に発展しました。

「その人が着ているデジタルファッションが見えない限り、それはただのフィルターで終わってしまい、現実世界には浸透しません。harmonyは、デジタルファッションが日常の中で自然に着られる世界を目指しています」と、原島さんは事業の目的を語ります。

(後編へ続く)

This article is a sponsored article by
''.