共働き世帯の増加や家族の形態が多様化し、複数人でお金を管理して生活するのが当たり前になってきています。ところが、日本の金融サービスのほとんどが個人単位で提供されているため、家族間での金銭のやりとりや確認作業が必要になる場面が少なくありません。こうした問題を解決するための“家族口座”アプリ「ファミリーバンク」を提供しているファミリーテックの代表取締役兼最高技術責任者の中村貴一さんに、起業までの経緯と今後の展望を伺いました。

コミュニティー向けのウォレットサービスから「家族」のニーズを見いだす

中村さんは大学卒業後、システム開発の会社にエンジニアとして就職しました。その後、ITベンチャーを経て、コンサルティングファームで大手ゲーム会社のシステム基盤開発や先端技術の研究支援などを行っていました。

会社組織で働く中で、「自分が正しいと思って行動したことが必ずしも周囲に理解されない」という疑問が生まれ始めます。ちょうどその頃、周りに起業する友人が増え、アクセラレーションプログラムやスタートアップに興味を持ち始めました。さらに、中村さんが趣味で開発していた音楽機材のオンライン試聴サイトがアクセラレーションプログラムに合格し、メンタリングを受ける機会にも恵まれました。そして2016年、中村さんは会社を辞めて起業し、様々な企業のシステム開発に携わるようになります。

「顧客のシステムを開発するのは確かに面白い仕事でしたが、自分のものにはならず、どこか他人事のように感じていました。自分でプロダクトを作りたいと思うようになりました」と中村さんは振り返ります。そこで中村さんは、ブロックチェーンを活用して新しい金融ビジネスができないかと模索し、コミュニティー向けウォレットサービス「GOJO」を考案します。GOJOはサークルや町内会など、複数人でお金を管理する組織向けのアプリです。

当初、GOJOは保険組合を作るための仕組みを想定していましたが、残念ながら日本ではそのニーズがほとんどなく、結果としてコミュニティー向けのウォレットサービスとしてリリースすることになりました。GOJOの運用を進めていくうちに、利用者の中には家族同士でこのサービスを使っているケースがあることが見えてきます。家族の中でも夫婦間でのお金にまつわる問題が浮き彫りになっていました。

共働き世帯のお金を管理するアプリとして注目を集める

夫婦でお金を管理することに困難を抱えている人が多いことに気づいた中村さんは、GOJOを夫婦や家族向けにシフトさせて、機能を整理し、再構築していきました。その成果はすぐに表れ、順調に利用者が伸びていきました。共働き世帯が増えているため、家族で共有できる金融サービスが求められていることを実感するようになったのです。

しかしながら、これからさらなる拡充を図ろうとした矢先、諸事情によりGOJOの運営を終了せざるを得なくなりました。そして、最終的に2019年、事業譲渡という形で中村さんの手元からGOJOは離れていきました。

銀行APIを使って銀行口座を家族で共有できるサービスの開発へ

事業を譲渡してから、中村さんの脳裏にはさまざまな次のビジネスのアイデアが湧いていました。それはヨガ教室から最新技術を使ったソフト開発まで幅広いものでしたが、技術者であるからこそ、すぐにそのアイデアを形にしての検証が可能でした。

その中には、当時はまだ珍しかった経営企画系のDXソフトなどもありました。しかし、「これは本当に自分が取り組むべき仕事なのだろうか」と自問していました。中村さんの関心は再びGOJOで気づいた家族内のお金の問題を解決することに向いていきました。

ちょうどそのタイミングで、銀行が銀行APIの開放をすることをニュースで知りました。それは2020年のことでした。中村さんは銀行APIを使って銀行口座を家族で共有できるサービスの構想を練り始めました。これこそが、“家族口座”アプリ「ファミリーバンク」の誕生のきっかけとなったのです。

(後編へ続く)

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