職場のデスクや会議室、打ち合わせの席で、ボトル入りのお茶が提供されることはよくあります。Blue Farm株式会社は、環境に配慮したプライベートブランドのお茶を、企業のサステナビリティ対応や営業活動のツールとして活用することを提案しています。同社の代表取締役社長である青木大輔さんに、起業に至る経緯をお聞きしました。
拡大するESG投資に追い付かない日本企業
青木さんは、お茶と企業のサステナビリティを結びつける新しい発想を持っています。前職では、機関投資家向けのIRや戦略立案を長年担当し、その中でESGやSDGsへの関心が高まる現状を実感していました。また、米国にMBA留学していた際、世界的に環境意識がさらに高まっていることを肌で感じていたそうです。
青木さんは、ESG投資が拡大するにつれて、企業がより一層の社会的責任を果たす必要があると確信しました。しかし、日本企業の多くは環境意識がまだ低く、国際競争力の低下が懸念されると危機感を抱いていたといいます。
ESGに対応しない企業はリスクを抱えることになり、資金調達も難しくなります。ESGレーティングが低下すると、投資家の評価も下がり、株価に悪影響が出る可能性があるからです。特に海外の企業では取引の契約のなかに、事業で発生する温室効果ガスの排出量が盛り込まれることが当たり前になってきています。しかし、日本企業の中には、排出量の測定すらできていないケースが目立つのが現状です。
サステナブル対応が不可欠なのにソリューションがない
海外では、社内の会議や打ち合わせでペットボトル入りの飲料を提供することに違和感を覚える人が少なくありません。企業のサステナビリティ理念が実際の行動に反映されていないと感じられるためです。
ペットボトルの製造には、石油などの化石燃料が使用され、その過程でCO2が排出されます。ESG対応を重視する企業は、消費者の環境意識の高まりにも応える必要があります。特に、消費者の間では使い捨てプラスチックの削減を求める声が強まっており、ペットボトルの使用はブランドイメージを損なうリスクを伴います。
今後、日本企業が外資系企業との取引を拡大するためには、ESG対応が必須です。対応を怠ると、事業機会を失うリスクが高まります。しかし、サステナビリティソリューションを導入しようとしても、適切な手段が見つからず困っている企業が多いのが現状です。
厳しい経営環境に直面する日本の茶園
青木さんは、静岡県藤枝市の400年以上続くお茶生産農家の出身です。茶業経営の厳しさと生産者が減っている現状を何とかしたいという思いを抱いていました。この10年間で静岡県の山間地の茶園は6000ヘクタールから3000ヘクタールへと半減しています。さらに、今後5年間で茶園の8割が廃業するとまでいわれています。
これまで業界では品質を高めたり、新しい飲み方を提案したりして食品としての価値を高めるアプローチをしてきましたが、取引額の低迷は続いています。選別や加工前の荒茶という状態までのコストが1キログラムあたり2500円くらいといわれているものの、現在の平均取引額が2000円を割り込んでます。多くの農家が赤字経営に陥っているのです。
取引価格は収穫時期が早いものほど高く、遅くなるとどれだけ品質が良くても下がるという不公平さも農家を悩ませています。先祖から受け継いだ畑を守りたいという思いで経営を続けているものの、儲からないために家業を継ぐことを断念する人が増えています。都心から移住して新たに茶農家を始めたいという人も、お茶ではなく他の農作物に転向することが多いのです。
環境価値の高い茶園をビジネスに活かす
国内ではペットボトルのお茶などの茶飲料の消費が増加傾向で、海外でも抹茶や日本茶がブームとなり輸出量が伸びています。また、お茶栽培には二酸化炭素を吸収するという環境価値もあります。このように、茶業は依然として成長産業としての魅力があるのです。
青木さんは、この環境価値を活かし、企業のサステナビリティニーズに応える新たなビジネスモデルを模索しました。埋もれていた茶園の環境価値を企業のサステナビリティソリューションに結びつけることで、新しいビジネスチャンスを探り当てたのです。
青木さんは、「茶園を守るのではなく、活用するために起業しました。時代に合わない産業なら淘汰されても仕方ないと思っています。しかし、これまで活かされていなかった茶園の環境価値は、サステナビリティを重視する企業にとって非常に価値があります。これまで埋もれていた価値を見つけたことこそがビジネスチャンスがあります」と力強く語ります。
(後編につづく)