株式会社Dots forは、通信インフラが整備されていないことによる情報格差を是正し、農村部の人たちの生活を豊かにすることを目的として設立されました。今回は代表取締役CEOの大場カルロスさんに、事業拡大のプロセスと今後の展望について伺いました。
必要なのは誰もが稼げる仕組みづくり
事業開始当初は、通信インフラを整備し、コンテンツを提供することで利用者を増やすことには成功しました。しかし、料金が理由で多くの利用者が数週間で解約してしまいました。この経験から、通信サービスだけでなく、収入を得られる仕組みが必要であることを痛感したのです。
そこで、Dots forは職業訓練の動画を配信し、利用者が副業を始められるよう支援しましたが、資材や機材の購入には現金の一括払いが必要で、多くの人にとっては大きなハードルとなっていました。これを解決するために、大場さんは割賦販売を取り入れたeコマースを始めました。
アフリカでは割賦販売の概念が根付いていなかったため、最初は理解を得るのに苦労しましたが、地元の文化や人とのつながりを大切にしながら信頼関係を築くことで、次第に浸透していきました。割賦販売によって、スマホや事業に必要な資材を購入できるようになったことで、農村部の人たちの生活を劇的に変えていきました。
また、村長の兄弟や地元の有力者をエージェントとして活用し、営業活動やトラブル対応を現地で行う仕組みも整備しています。現在、ベナンでは約30人、セネガルでは2人の現地採用スタッフが働いており、今後さらにスタッフを増やしていく予定です。
大場さんは、先進国のやり方をそのまま押し付けるのではなく、現地の人と協力し、彼らの生活に根ざした持続可能な事業を展開することを重視しています。その成果は返済率にも現れており、スマホの割賦販売の返済率は90%前後、副業用の資材や機材の割賦販売では98%に達しています。今では、村長同士の横のつながりを通じて情報が広がり、新しい土地でもスムーズに事業を進められるようになりました。
低コストの通信インフラをアフリカ全土の農村部へ
Dots forの通信インフラは、従来の基地局を中心としたスター型ネットワークとは異なり、複数の無線ルータを経由して分散的にデータを送信する分散型の無線ネットワーク技術を採用しています。サーバ、ルータ、バッテリーボックスをソーラーパネルに接続するだけで、迅速かつ低コストでインフラを整備できるのが特長です。
このサービスをアフリカ全土の農村部に広げるため、2030年までに西アフリカ諸国の農村部に住む2億人にインターネット接続を提供することを目指しています。農村部で電気や水道、通信インフラが整備されない理由の一つは採算性の問題ですが、Dots forは農村部の人びとの収入向上を図ることで、他の企業の参入を促し、インフラ整備や経済活動の活性化につながると考えています。
また、Dots forはアフリカの農村部での顧客接点や行動データを把握しているため、そのデータをさまざまな分野で活用できることが強みです。さらに、アフリカの農村部に産業と就業機会を創出することで、農村に住みながらも先進国レベルの賃金を得られる未来を実現しようとしています。
大手企業との連携で事業が拡大
2024年9月、Dots forはブラザー工業株式会社と提携し、「村のデジタルコンビニ」を拠点に印刷・コピー事業の実証実験を開始しました。アフリカの農村部には、役所に提出する書類や教育現場での印刷ニーズがあるものの、印刷サービスが不足しており、住民は高い運賃を払って都市部まで行かなければなりませんでした。村のデジタルコンビニを通じて手軽に印刷できる環境を提供することで、誰もが低価格で印刷サービスを利用できるようになります。
さらに、教育分野でも印刷需要が高く、子どもたちの学びをサポートすることで、教育の質の向上にも貢献しています。このような取り組みは、他の企業からも注目されており、中古スマホの販売やスマホの充電サービスなど、さまざまな分野から引き合いがあります。
1000年先を描いて活動
大場さんは、経済合理性だけを追求するのではなく、社会的課題の解決に向けた高い志を持ち、人生をかけてアフリカに価値を残したいという強い思いで事業を展開しています。「大変なことが好きで、それが続けられる理由」と語る大場さんにとって、Dots forの事業はまさにその象徴です。
「私はいつも1000年先を描いて活動しています。1400年前にイスラム教を創始したムハンマドの教えが、今でも人々の生活に影響を与えていることに感銘を受けています。イスラム教徒が一日に5回祈る姿は美しく、その信念が続くことに深い尊敬の念を抱いています。私たちも、アフリカの1000年後の何世代も先の人たちが、Dots forのおかげで今の生活があるんだと思ってもらえる未来を築いていきたいです」と大場さんは熱意を込めて語ってくれました。