現在、アフリカの人口は12億人を超え、2050年には25億人に達すると予測されています。これは世界人口の約4分の1を占め、アフリカが世界最大の人口を擁する経済圏となる可能性を秘めています。しかし、人口増加は主に貧しい農村部で進んでおり、インフラ整備や農家の収入向上が課題となっています。今回は、アフリカの農村部に通信・デジタルプラットフォームを提供する株式会社Dots forの代表取締役CEO、大場カルロスさんにビジネスの背景と目的を伺いました。
母親の死をきっかけに、人生をかけて世界に残せる価値を模索
大場さんが事業を立ち上げた背景には、母親の死が深く関わっているといいます。大場さんの母親は若くして夫を亡くし、シングルマザーとして学校教師をしながら二人の息子を育て上げました。ようやく息子たちが独立し、自分の時間を楽しめるようになった矢先に病に倒れ、早期退職して療養生活に入るも、突然命を落としました。
大場さんは「母の人生は何だったのだろう」と深い喪失感に襲われました。しかし、葬儀には母親が40年間にわたって教えた生徒たちが参列しました。その姿を見たとき、母親がこの世に残した価値は、彼ら生徒一人ひとりだと確信したといいます。自分はこの世界に何を残すことができるだろうと、自らに問い続けたそうです。
「人生は旅そのもの。一生旅を続けたい。物理的な旅だけでなく、精神的な探求も含めて、この世界のすべてを知りたいという欲求がありました」と大場さんは振り返ります。これまでに100カ国以上を旅してきました。その経験の中で、開発途上国における都市部と農村部の格差に直面し、深い疑問を抱くようになりました。
アフリカでの挑戦、通信インフラが生む可能性にかける
アフリカとの縁は、大場さんが以前の職場で関わった経験に遡ります。その際に得た現地の知識や人脈は、後のビジョンを支える重要な要素となりました。さらに、大手通信企業が農村部の通信インフラに参入していないことにビジネスチャンスを見出し、アフリカの人たちへの強い思いが大場さんの決断を後押ししました。
「このアフリカの現状を変えることができたら、自分がこの世界にインパクトを残せるのではないか。自分がやりたいことを成し遂げて、アフリカの人たちに貢献できれば、亡き母にも親孝行ができるのではないか」と感じ、大場さんはアフリカでの起業を決意しました。その思いは強く、「今行動しなければ、一生後悔するに違いない」という確信に基づいていました。
農村部の住民が情報と機会にアクセスできる環境を整える
アフリカの都市部と農村部の間では、格差が拡大している現実があります。アフリカの人口の約6
割は農村部に住んでいますが、その多くの人たちは情報や機会へのアクセスが極めて限定されています。彼らは、生まれ育った農村を離れ、都市部での出稼ぎに頼るか、限られた資源の中で厳しい生活を続けるしか選択肢がない状況に追い込まれています。
通信インフラが整備されていないことで、農村部の住民は情報や市場へのアクセスが難しく、収入を増やす手段も限られています。この負の連鎖を断ち切り、農村部に住む人びとが豊かな生活を送れるような環境を整えたいというのが、大場さんの掲げる目標です。
誰もが農村部で幸せに暮らせる未来へ
大手通信会社は、農村部では採算性が低いことを理由にインフラ投資を控えています。そのため、農村部では通信インフラが整備されず、情報にアクセスできないことで機会が奪われています。この情報格差を解消し、農村部の人びとが経済的に自立できる環境を作るために、大場さんは2021年10月、Dots forを設立し、本格的に活動を開始しました。
通信・デジタルの力を活用することで、アフリカの農家は副業で収入を増やし、都市部への出稼ぎをしなくても生活が成り立つようになります。また、デジタル技術を使えば、先進国の市場と直接取引し、外貨を得ることも可能です。これにより、収入が安定すれば、子どもたちが教育を受ける機会も増えていくと考えています。
大場さんは、アフリカの農村部の人びとがどこに住んでいても情報にアクセスでき、地域で自立した生活が営める未来を目指し、挑戦を続けています。誰もが農村部で安心して暮らせる社会の実現に向けて、大場さんの歩みは止まりません。