株式会社ユーリアは、スマートフォンアプリで尿の成分を解析して健康状態を可視化する検査キットの製造・開発を行っています。有償での検査サービスに対するハードルがある状況で、ユーリアは次の一手として「リーズナブルなサービス提供」「法人向け販売」「医療機器認定」などに取り組んでいます。将来の医療を支えるサービスとしてのビジョンについて、代表取締役の水野将吾さんに伺いました。
「まずは、検査キットを使ってもらう」ことが第一歩
ユーリアが提供しているサービスは、専用の検査キットに尿をかけ、それをスマートフォンアプリで撮影すると栄養や健康状態を可視化できるサービスです。従来の検査よりも手軽に実施できるメリットがありますが、水野さんは前職で郵送検査事業に携わっていた経験から、有償で検査を受ける個人利用者は少数だろうと認識していました。
そこでユーリアでは、検査キットを低価格で利用できる新たなビジネスモデルの開発に取り組んでいます。例えば、サプリメント会社から費用を提供してもらい、サプリメントを購入すると検査キットがついてくるというモデルです。個人はリーズナブルに検査キットを利用でき、サプリメント会社は商品の効果を検証することができます。
また、検査結果データの活用についても検討を進めています。検査結果がたくさん蓄積されれば、データの価値も高まります。例えば、利用者一人ひとりに対してはパーソナライズ化できるサービスとの連携が考えられますし、製薬会社とは創薬研究での連携も考えられます。十分なデータを蓄えるためにも、利用者には負担なく継続して使ってもらえるようなビジネスモデルの実現を目指しています。
ユーリアでは利用者への調査から、検査サービスの利用経験がある人はリピート率が非常に高いことが明らかになっています。そこで、「初めの1回」を利用してもらうための入り口となるサービス開発に注力しています。
医療機器としてさらに高品質なサービス提供を目指す
リーズナブルなサービス提供の次のステップとしてユーリアが目指しているのは、医療機器としての認定を受けることです。約1万件の検査データを収集して検証を行った結果、2025年3月に医療機器申請予定で、1年後に承認が得られる予定です。
また、名古屋市にある医療機関では学校検診に関する実証実験も実施しています。その医療機関では、学校健診で尿検査を実施する際に、検体を一度に回収できず何度も訪問する必要があり、これが課題でした。ユーリアのサービスを導入することで、検体を回収する手間がなくなり医療機関側の負担が大幅に軽減できます。他にも企業からの協賛金を募って、個人が負担の少ない低価格で検査できる仕組みづくりにも挑戦しています。
さらに、2024年9月からはオンライン診療専門の病院で検査キットの導入が開始されます。一般の病院には、医療機器認定を取得した後、再来年以降に取り組みを進めていく予定です。
「日本では、すべての人が公的な医療保険に加入し、互いの医療費を負担する国民皆保険制度が整備されています。しかし、将来的に医療保険制度がどのように変わるかは予測が難しく、個別に保険に加入して検査を受ける時代が訪れる可能性もあるかもしれません。そのような状況に備え、ユーリアのような健康診断の代わりとなるサービスの価値が高まると考えています。」
理想は「検査が不要になる」世界
水野さんは、「客観的なデータにより現在地を知ることがスタートだ」と語ります。現在自分の体重を把握していなければ肥満かどうか判断できず、また、現在の栄養状態がわからなければ、何が不足しているのかもわかりません。
例えば、近年ではカロリーは十分に摂取していても必要な栄養素が不足する「隠れ飢餓」が社会問題となっています。日本では3人に1人が隠れ飢餓状態といわれており、最近の栄養失調の主な原因です。健康状態を手軽に把握できる手段を提供することで、この問題は大幅に軽減できると考えられます。
水野さんの理想は、検査をせずに健康状態が把握でき、適切なアクションが取れる世界の実現です。例えば、朝起きてトイレに行くと、スマートフォンに「〇〇の疾患が疑われるため、今すぐ病院に行ってください」とプッシュ通知が届くような未来です。
そのような世界の実現を目指して、水野さんはデータの収集や研究開発を進めていくと話してくれました。