株式会社ユーリアは、スマートフォンアプリで尿の状態を解析して健康状態をモニタリングできるサービスを運営しています。このサービスはどのような経緯で生まれたのか、また従来の尿検査とは何が異なるのかについて、代表取締役の水野将吾さんに伺いました。
身近な人のがん宣告からユーリアが生まれた
水野さんは2021年4月にユーリアを創業しましたが、最初から起業を意識していたわけではありませんでした。女性向けヘルスケアアプリ「ルナルナ」を運営する株式会社エムティーアイで新規事業の立ち上げを経験し、新規サービス開発の面白さを知りました。その一方で、「もっと売れるサービスがあるのに」と思いながらも、組織内では自分の意見が通らないことに対するもどかしさを感じていたそうです。
そこで、自分の考えの正しさを実証するため、新しいビジネスを実践したいという気持ちから起業を決意しました。退職後にH.I.Sの創設者が設立した澤田経営道場で経営を学びながら地方創生事業などに携わりましたが、その時点では具体的な事業イメージは定まっていませんでした。
契機となったのは、幼なじみが、がんのステージ4で余命わずかと宣告されたことでした。身近な人のがんの進行に気づけなかった経験から、病気の早期発見の重要性を痛感し、現在のビジネスへとつながりました。
当初、ユーリアでは病気の早期発見を目的としたサービスを目指していました。しかし、そのためには医療機器の認定が必要であることから方針を転換し、まずは栄養状態のモニタリングサービスとしてリリースすることにしました。
尿を使った検査をスマートフォンアプリで簡単に
ユーリアでは、尿から体の状態を解析し、現在の栄養状態を可視化するサービスを提供しています。専用の検査キットとスマートフォンアプリを使用し、わずか2分で検査結果が表示されるのが特徴です。血液採取が不要で、痛みなく検査を受けることができます。
検査キットは、妊娠検査薬のように尿をかけて使用するタイプで、約15センチの黒いしゃもじ型に正方形のリトマス試験紙状のものがいくつも貼り付けられています。尿をかけると色が変化し、その色の変化が定着するまで2分待った後、スマートフォンのアプリで読み込み、画像を解析して結果を表示します。
メーカーや機種が異なるスマートフォンで、どれも同じように正確に色を認識するのは至難の業です。従来のカラーチャートでは、画像解析精度が元のデータ品質に依存していたため、場合によっては解析できないことがありました。また、同じ試験紙を撮影しても、撮影するたびに異なる結果が出てしまうこともありました。
そこで、ユーリアでは利用者が撮影する際に光や影の影響をアナウンスして、できるだけ高品質な写真を撮影できるようサポートしています。加えて、試験紙の一部にホワイトバランス調整機能を持たせることで、色の正確な判断が可能となるよう工夫しました。
色を診断するAIは、撮影した写真と事前に設定してある色情報を比較し、画像の色を補正することで、高精度な判定を実現します。アプリの判定精度は、一般の医療機器と同等の97~98%に達しており、十分に医療機器として使用できるレベルに達しています。これらの技術はすべて自社開発で、特許も出願中です。
バイオマーカーの研究開発にも注力
従来の尿検査では主に糖、蛋白、潜血などを調べるのに対し、ユーリアの検査キットは塩分、ビタミン、カルシウムなどの栄養素に加え、酸化ストレスや野菜の摂取量まで調べることができます。
もっと多くの項目も調べることも可能ですが、あまり医療行為に近づきすぎると医療機器に該当してしまうため、表示内容を制限していると水野さんは説明します。「医療機器の認定は複雑で、例えば体温計が37度を表示するだけなら雑貨扱いですが、『37度だから病院に行きましょう』と提案すると医療機器になります。この線引きが難しく、試行錯誤しながらサービス開発を進めています。」
また、並行してバイオマーカー(病気の診断基準や治療の効果判定を行うための項目)の研究開発にも力を入れています。具体的には、葉酸や亜鉛を検出できる試験紙の開発や、小児がんを測定する試験紙の共同研究です。高速液体クロマトグラフ法(HPLC)という液体中の成分を分離して検出する技術を試験紙に落とし込むことに成功したほか、東京大学とも新たな検出手法の開発に向けた共同研究を進めています。