製造現場DXプラットフォーム「Smart Craft」を提供する株式会社Smart Craftは、創業から一貫して製造現場×DXという文脈で、製造現場の生産性向上に取り組んでいます。創業者の浮部史也さんに起業の経緯と、現在のサービスへの事業転換を伺いました。
メーカーとコンサルティングファームの経験から起業に至る
大学在学中、スタートアップでのインターンシップを経験した浮部さんは、上場手前の活気ある環境で働く中で、起業して社会に価値を提供することの面白さを実感しました。社長からの「起業したほうがいい」という言葉もあり、将来的に起業を目指すことを決意しますが、すぐに実行に移すアイデアはなく、まずは社会人としての経験を積むために、新卒でキーエンスに入社しました。
キーエンスは革新的な製品を提供する企業で、営業活動も非常に特色がありました。もともとコミュニケーションが得意だった浮部さんは、自身のスキルをさらに高める機会と考え、仕事に没頭しました。
約3年間にわたって製造業向けの法人営業を経験した後、次のキャリアとして、より経営に近いテーマに取り組み、広範なマーケットを俯瞰する力を身に付けたいと考え、アクセンチュアに転職しました。ここでは、大企業の営業とは異なり、さまざまな業種のクライアントに対して、新規事業立案、成長戦略、全社DX、M&Aなど、多様なプロジェクトに取り組むことができました。
コンサルタントの仕事は非常に面白く、刺激的でしたが、「起業するなら早めにチャレンジしたほうがいい」というアドバイスを受け、独立する半年ほど前から事業アイデアを模索するようになりました。
キーエンスで多くの製造現場を訪れた経験から、製造業には今でも非効率な業務が残っていることに課題を感じていました。また、コンサルタントとしてさまざまなマーケットを見たことで、製造業は最も大きな産業でありながら、IT導入が遅れている部分が多いことに気づきました。そこで、ビジネス的にも大きなチャンスがあると考え、製造業にフォーカスして起業することを決意しました。
製造現場の「生産日報のペーパーレス化」と「生産データの見える化」
2021年に創業した「Smart Craft(スマートクラフト)」は、生産日報のペーパーレス化や生産データの可視化など、製造現場の業務効率化を支援するクラウドサービス(SaaS)を提供していました。DX推進が叫ばれる中でも、多くの製造現場では、依然として紙に記入した生産日報をExcelに転記するという非効率な作業が残っていました。
そこで、中小企業に焦点を当て、「ペーパーレス化を進めましょう」「まずは工場の紙をなくし、そのデータをダッシュボードで集計・分析できるようにしましょう」と提案しました。お客様自身がノーコードで簡単に日報を作成できるよう、開発を進めました。導入のハードルを下げるため、価格を抑え、インターフェースもシンプルに設計しました。
タブレットやスマートフォンを用いて生産日報をデジタル化すると同時に、Excel等で行っていた生産実績の集計をリアルタイムにダッシュボードへグラフ表示します。また、蓄積されていく日報の検索機能や承認機能などにより、これまで紙やExcelなどのアナログな管理になっていた製造現場の効率化が可能となります。
新たなターゲットと製品コンセプトの再構築
2022年初めには、約10社の製造企業でβ版プロダクトのトライアルが決まり、同年春頃の正式版リリースを目指していました。しかし、中小企業向けにターゲットを絞ったビジネスに限界を感じて、サービス自体のコンセプトを見直すことになりました。
当初は中小企業向けにライトなソリューションとして導入しやすくしたものの、町工場ではタブレット端末やWiFi などの通信環境が十分でなく思いのほか初期投資がかかってしまうことや、ITリテラシーや推進体制の問題など、結果としてオンボーディングコストが上がって、現場に何回行ってもなかなか DX プロジェクトが立ち上がらないこともありました。その一方で、製造現場業務の局所的な IT 化ではなく包括的なDXや製造データの一元管理を望む声が多く寄せられました。
そこで、真の顧客ニーズに応えるため、プロダクトを再構想し、ターゲットを中規模からエンタープライズ企業にまで広げることにしました。その結果、製造現場DXプラットフォームとしてプロダクトを作り直し、2023年7月に正式版の提供を開始しました。