工場や倉庫、飲食店でのロボット利用が拡大する一方で、小売店舗では安全面への配慮などの課題がありますが、品出し業務などには有効です。株式会社MUSEは小売店舗に最適化されたマルチユースストアロボット「Armo」を開発し、国内外での導入を見込んでいます。創業者の笠置泰孝さんに、起業のきっかけや「Armo」の特徴について伺いました。

ロボットの自動運転技術にポテンシャル見いだす

もともと起業や会社経営に関心を持っていた笠置さんが、ロボットに興味を持ったきっかけは、大学在学中の2005年に「愛・地球博」で当時最新のロボットを見たことでした。直線的または反復的な作業をこなすそれまでの機械と異なり、まるで生命や思考を持っているかのような自在な動きに感動したからです。ただし、当時は人型(歩行型)ロボットが主流だったことから、ブレークスルーを起こすのはなかなか難しいとも思ったそうです。

大学卒業後、大手監査法人や大手証券会社でキャリアを積みながらも、ロボットの可能性や方向性を注視し続けていました。そんな中、ロボット開発会社が人型ロボットの開発から方向転換し、ロボット技術をベースに自動運転技術をスタートさせる流れがあると知り、ロボットの新たな方向性が見えたと感じます。

人間を模倣するのではなく、個々の要素技術を組み合わせて新しいプロダクトを作り出す可能性の一つが自動運転技術にある。そう考えた笠置さんは株式会社ZMPに入社して、物流分野での自動運転ロボットの展開を任されました。物流ロボットの量産体制の構築から拡販までを手掛け、延べ300社以上の倉庫や工場に導入されます。この経験を通じて、ロボットビジネスの全体像が見えてきたことから、自らのビジョンを実現するために起業を決意しました。

店舗に溶け込むロボットを追究

ZMPでも小売店舗から多くの引き合いがありましたが、既存のロボットでは導入が難しかったのです。小売店舗の人手不足や店頭業務の忙しさといった課題を何とか解決したいという思いがありました。

小売店舗では業務の約40%が品出しに費やされていますが、この部分のデジタルトランスフォーメーション(DX)は進んでいません。バックヤードから商品棚までの搬送作業を自動運転ロボットが担うことで、大きな工程削減のインパクトを生み出すことができます。

しかし、工場や倉庫向けに設計されたロボットをそのまま小売店舗に導入することはできません。小売店舗は買い物客が自由に動き回る場所であるため、床にマーカーを引いて回遊を制限したり、買い物客を押しのけてロボットを走行させたりすることはできません。

そこで、台車で商品を運ぶスタッフの代わりに、ロボットが店内を走行しても自然に感じられるように、ロボットの動き方、サウンド、デザイン、サイズを追求しました。こうして開発された自律移動ロボットが「Armo」です。

従来のオペレーションを変えずに導入が可能

「Armo」はロボット掃除機と同程度の約10㎏のサイズ・重量で、100㎏までの商品をバックヤードから商品棚まで運ぶことができます。開発にあたって笠置さんが最も重視したのは、小売店が従来のオペレーションを変えずに導入できるロボットにすることでした。

「Armo」を導入することで、大きな費用対効果が得られる見込みがあります。品出しの搬送作業をロボットで自動化することで、スタッフは他の商品の積み替えなどに時間を割くことができるようになります。そして何より、ロボット導入に対する抵抗感をなくしたい。

「小売店舗にとってロボットを導入するのは初めてという方がほとんどです。最初からあれもこれもと考えずに、まずはコスト的、心理的なハードルを下げてもらって、ロボット導入への最初のドアを開けていただければと考えています」と笠置さんは話します。

(後編へ続く)

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