日本の魅力やポテンシャルを強く感じながらも、日本独特の就活文化が外国人の人材活用を阻んでいると考える株式会社SPeakのCEO唐橋宗三さん。外国人特化型就活支援サイト「JPort Journal」「JPort Match」のほかにも、「キャリア」「金融」「住まい」という外国人の課題解決にも取り組もうとしています。
外国人が感じる日本の魅力と課題
フィリピン出身で岡山大学に留学経験のあるヴィズコンデ・ニコールさんも、日本独特の就活文化に苦労した一人です。「日本のエントリーシートや自己PR文は、スキルを一つに絞りながらエピソードを絡めて説明する必要があります。でもこのようなテクニックのノウハウは誰も教えてくれなかったため、たくさんの就職試験に落ちました」。
日本での職務経験を積むためにSPeakのインターンになったニコールさんは、すぐにSPeakが留学生や外国人社会人のことを第一に考えているとわかりました。そして、日本がもっと外国人を受け入れる国になるようサポートしたいという思いから、1年間のインターン期間を経て、SPeakに入社しました。
ニコールさんも、日本は世界中の若者にとって魅力的な国であると考えています。「アニメやコミックなどのコンテンツが豊富ですし、特に東南アジアの若者にとって日本はまだまだ魅力的です。フィリピンのトップ大学を卒業しても母国の企業の月給は日本の4分の1ほどで、経済的にも日本は憧れの国です」。
日本も奨学金や補助金などの制度を設けていて、外国人の留学生は増えています。それなのに「日本企業への就職という『出口』がなく、帰国してしまうのはとてももったいない」。そうした課題から、SPeakでは外国人が日本で生活する際の第一関門といえる「就活支援」のソリューションを提供し始めました。
SPeakが切り拓く日本での就活支援
現在、SPeakが提供しているサービスは外国人向け就活情報サイト「JPort Journal」と就職マッチングサイト「Jport Match」です。JPort Journalは、日本特有の就活のノウハウを記事や動画で紹介するサイトで、既に5000人以上の留学生が利用しています。これらのコンテンツは、実はニコールさんの就活体験を生かして作られています。
「私が就活していたころは、まずセンパイ(OBやメンター)がいなくて苦労しました。大学のキャリアセンターに相談しても『英語ができるなら大手外資企業にしなさい』など、学生側の希望をあまり聞いてもらえませんでした。だからセンパイに相談でき、グループディスカッションの仕方など日本特有の就活文化を教えてくれるサイトを目指しました。今では約60人のセンパイに オンラインやオフラインのイベントなどで相談できるサービスになっています」。
一方、JPort Matchは外国人就活生に特化したダイレクトリクルーティングサイトです。既に大手グローバル企業から日系の中堅メーカーまでさまざまな企業が採用に利用しています。特に海外展開している地方の中堅企業からの引き合いも多く、地方の「外国人の人材不足」「情報不足」という「二重苦」を解消できる可能性を秘めています。
これらのサイトでは、直接就活生と企業を結ぶコミュニティづくりを目指していますが、留学生を多く抱える大学からの相談も多く、大学のキャリアセンターを支援できるようなコンテンツも提供していきたいと考えています。 また将来的には日本国内の外国人だけではなく、海外でも日本文化に関心のある学生やエンジニアなどに門戸を開いていく方針です。
日本での生活を支えるインフラ的存在に
「SPeak」という社名には、「スペシャルな」「頂点を目指す」という意味合いのほかに、「外国人の代弁者になりたい」という思いも込められています。外国人が日本で安心して暮らしていくには、「キャリア(就職)」だけでなく、「金融」「住まい」の関門があります。それらすべての社会解決を目指しています。
「金融」においては、「JPort クレジットカード」(仮称)というサービスで、信用のある外国人ならば分け隔てなくクレジットカードを発行してもらえる環境を整えていきます。また長期的には不動産仲介業や金融機関、通信会社などを巻き込んで、信用力のある外国人には保証を受けられるようなサービスを構想しています。
グローバル人材先進国に向けて
唐橋さんは日本の未来について、「日本では『ブラック・ライブズ・マター』(黒人差別への抗議活動)が起きるほど直接的な差別は少ないが、例えば銀行や不動産仲介会社から利用を断られるなどの『構造的な差別』があります。日本でも2060年には移民が12%に達すると言われていますが、このまま何も対策を講じなければ排他的な社会問題が解決しなくなってしまいます。良識のある人なら分け隔てなく暮らせるパスポートのような仕組みを作っていきたい」と考えています。
日本に住む際に30回以上、住まいの仲介を断られた経験のあるニコールさんは、切実な思いとして、「私が住みたいと思う日本にしたい」と話します。ニコールさんは、「SPeakに入社しなければフィリピンに帰国していたでしょう。外国人の課題解決に取り組んでいる会社に勤めることができたので、いま日本にいられるのだと思います」と話しています。
SPeakのミッションは「グローバルなヒトがグローバルな会社をつくる」であり、インクルーシブな社会を目指しています。日本が「グローバル人材先進国」になれるように、SPeakは社会インフラとしての立ち位置を確立していきます。