認知症を未病段階で発見すれば、生活習慣の改善や認知機能改善サプリの効果が期待できます。認知症予防サービス「Brain100 studio」を提供するMIG株式会社の代表取締役社長兼CEO甲斐英隆さんに、「20年後にアルツハイマー病発症者をゼロにする」取り組みを伺いました。
VRゴーグルで空間ナビ脳機能を測定し、認知症リスクを超早期発見
駒木)これまでは創業の経緯とアルツハイマー病の原因についてお伺いしてきましたが、以降はMIG社におけるアルツハイマー病への取り組みと将来的なビジョンについてお伺いしたいと思います。MIG社の検査は、具体的にどのような検査をするのですか。これまでの検査法と何が違うのですか。
甲斐)MIGのテストは、VRゴーグルをつけて椅子に座ったままVR空間内を疑似的に歩くもので10分くらいの簡単なテストです。まず通過点1へ行き、次に通過点2まで行き、それからスタート地点に戻ってもらいます。スタート地点に目印はないので、戻った場所と本来のスタート地点に誤差(エラー距離)が生じます。嗅内野の格子細胞の活動が下がると、頭の中の地図が正確でなくなるので、エラー距離が大きくなるのです。このテストを3回やってもらい、エラー距離の平均で判定します。
また私たちは、このVR測定に加えて、脳健康スコアによる判定も併用しています。具体的には2019年にWHOが発表した「認知症予防ガイドライン2019」で示されている12のリスク項目(運動、食生活、社会的活動、体重、血糖値、高血圧、アルコール摂取量、コレステロール、聴力、メンタルヘルス、等々)に加え、欧米で論文発表されている4項目(睡眠の質、歯周病など)を付加しています。
MIGの検査方法は、VRを用いて人間の空間ナビゲーション機能の精度を測定して解析することでアルツハイマー病の最初期の兆候を判定するので、MCI期以降でないと判定出来ない長谷川式やMMSE式といった神経心理テストで課題となる超早期は健常者としか判定出来ない部分、気分や体調によるブレが発生しにくいのに加え、ステージⅠ、Ⅱの段階で進行判定できるところが決定的に違います。非侵襲で短時間で簡単に実施出来る検査方法なので、検査費用に検査時のアドバイスと、半年間の定期的なアドバイスを含め、チャネルパートナー先が決められるのですが、判定のみの参考価格としては3000円~5000円でのご提供を予定しています。
生活習慣改善と脳機能改善サプリメントが認知機能改善につながる
駒木)認知症の回復にはどのような治療もしくはトレーニングがありますか。
甲斐)認知症は今のところステージⅢのMCI(軽度認知障害)より手前(プレクリニカルと呼ばれることもあります)での対処が有効な発症遅延の実現へ向けては重要となります。この時点での適切な運動や食生活、睡眠や過度な飲酒の抑制、メタボ改善といった生活習慣改善が大きく予防に寄与します。これに加えて脳機能改善サプリメントもお勧めしています。最初期の神経原線維変化を引き起こす原因の研究が進んでおり、その各原因に対して効果的な成分として、抗炎症効果、シナプスの活性化、タウタンパク質の凝集抑制効果がある成分を摂取することが有効だと言われています。例えば熟成ホップというサプリメントは、腸と脳の働きを活性化して、前頭葉皮質や海馬の神経伝達物質を増やして認知機能を改善させます。またカマンベールチーズ由来の成分が記憶力や注意力を改善させることもわかってきています。どちらも抗炎症効果があると言われています。さらに今後はDTx(デジタルセラピューテックス)のように、ソフトウエアやアプリを通して楽しみながら治療、予防していくことも考えられると思います。
駒木)MIGのVR測定手法はかなり先進的な取り組みだと思うのですが、医学界ではどのように捉えられているのでしょうか。
2020年4月に、MIGのVR測定を使用して藤田医科大学が研究リーダーとしてアルツハイマー病の超早期判定と先制医療のアプローチを確立するプロジェクトが申請され、AMED(日本医療研究開発機構)プロジェクトに採択されています。現在推進中で、既に出てきている有効な研究結果の報告を準備している最中です。藤田医科大学とは社会実装も含め緊密に連携させて頂いています。
また、既に数年前にプレスリリースを出している南東北グループ羽生春夫先生(東京医大名誉教授)と進めている研究でも、非常に幅広いMCI期の症状に関する興味深い判定の研究を進められております。
20年後にアルツハイマー病発症者をゼロにする
駒木)最後に、MIGが将来実現したい世界を教えてください。
甲斐)MIGは「20年後にアルツハイマー病発症者をゼロにする」ことを目標にしています。これは私が決めた目標ではなく、連携ご指導頂いている著名な認知症専門医の先生方がVR測定技術を磨き上げ、先制医療のアプローチと組み合わせれば、このゴールの達成は夢ではないと仰るので、昨年から目標を一段高く掲げています。認知症の問題は日本だけではありません。日本で事業基盤が確立したら、次はアメリカ、さらにヨーロッパ、そして10年もすればアジアでも社会課題になるでしょう。アルツハイマー病予防と言えば誰もがMIGを想起されることを目指しています。
駒木)今想定されている幾つかのプロジェクトを、可能な範囲でご紹介ください。
甲斐)未病・予防の分野では、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)による医療機器認定は必ずしも必要ないのですが、最近の検証により、MIGのVR測定で超早期だけでなくMCI期でも意味のある測定できそうなことがわかってきました。MIGのVR測定なら、体調や気分にかかわらずアルツハイマー病の超早期スクリーニングやMCI期でも示唆を出すことができて、これまでより効率的で効果的なアプローチで認知症の検査ができることを目指しています。そういった意味で、人間ドックや健診センターは主な展開チャネルになりますが、医療機器認定を受けて保険診療が必要な医療機関臨床現場にも広めていきたいと思っています。
また、コンシューマー向けにもっとカジュアルに超早期発見から予防を一気通貫でしてもらうべく、大手ゲーム会社と組んで脳年齢判定と同時に脳トレも実施出来るようなサービスも提供していきたいと考えています。このサービスができれば、フィットネスクラブなどの健康関連企業とのeSportsなどでの事業シナジーの可能性に加えて、体重計や血圧計のように家庭でも気軽に利用出来る時代が来ると思います。
駒木)認知症は発症した本人はもちろんですが、それ以上に介護やサポートする家族に経済的にも、精神的にも、体力的にも大きな負担をかけることになります。MIG社の取り組みが実現し、超高齢社会の日本において、心強い福音となることを切に願っております。ありがとうございました。