現実世界にいながら、ゲームや映画の登場人物になったかのような音声体験ができるMRプラットフォーム「Auris」。今までにない体験ができるだけでなく、設置負担の低さが評価され導入企業が増えています。あえて「音」にこだわる理由や、MRが当たり前になったときに目指す未来について、株式会社 GATARI 代表取締役CEOの竹下俊一さんに伺いました。
「音」に特化したサービス
「Auris(オーリス)」はラテン語で「耳」を意味する言葉に由来し、その名のとおり「音」に特化したサービスです。センサーやカメラが取得した現実世界の位置情報をもとに、立体的で臨場感のある音声を重ねて新しい価値を生み出します。
ゲームエンジンを用いて開発しているためCGを追加することは可能ですが、Aurisではあくまでも音を重視したコンテンツ設計を行っています。音でのMR体験を考えた場合、三次元のコンテンツを追加するよりも、情報量が多い実際の景色を活かしたほうが自然で表現の幅も広がるため効果的です。ただ視覚情報を軽視するというわけではなく、スキャンした位置情報とカメラで撮影した位置や方向を把握するVPS(Visual Positioning Service)技術により、ユーザーが何に視線を向けているかといった情報には気を使います。また音声を聴いているユーザーに違和感を与えないような工夫も重ねています。
GATARIの強みについて、竹下さんはこのように分析します。
「GATARIでは、MRのエンジニアだけでなく、音響コンテンツの専門家や脚本家、作曲家などがチームに在籍しているのが強みです。新たな知見を得る目的で定期的に自社コンテンツ制作も手掛けており、受け入れられやすい表現などを模索しています。また通信会社やディスプレイデザイン会社などのパートナー企業にコンテンツを活用してもらいながら、人間の動きや行動特性といったデータも蓄積しています。他社が同じようなサービスを開発する場合は、参入障壁はかなり高いと思います。」
MRは社会の「当たり前」になっていく
現在MRはイベントや特定の施設だけで提供される特別な体験ですが、将来的にはMRグラスが普及し、日常生活で普段使いされるものになっていくと竹下さんは捉えています。そのため市場が拡大したときにビジネスで主導権を握れるよう、今からMRが体験できる場所を増やすとともに、ノウハウや新たな利用事例の蓄積にも積極的に取り組んでいます。
また三菱地所、東京メトロ、JTBなど、施設を持つ企業との連携を進めるほか、施設に手を加えるのが難しい世界遺産の姫路城で、地域課題の解決を目指した観光DXの実証実験を行うなど次の一歩を踏み出しています。
MR制作プラットフォームを展開するGATARIが目指す未来は、「現実空間とデジタル空間が融合し、物質と情報が等価に扱える世界の実現」です。現在は企業がWebサイトを持ち、情報を発信するのは当たり前です。それと同様に、施設や場所といった物理的な空間がMRによるデジタルな空間を持ち、情報を発信することが当たり前になる世界を見据えています。
デジタル空間の活用で人とインターネットが解け合う世界を目指す
「今は物理的な空間しかなくて、デジタル側は全部空いている」と見ている竹下さんは、「まるまる半分空いている状態」の世界に大きな可能性を感じています。
「どの物理空間にもデジタル空間が存在する状況、そしてARやMRのようにデジタルで表示する情報と、看板やモニターのように物理的に表示する情報を上手に使い分けられるような世界を作っていきたい。そのためには、まずはパートナーと一緒にシェアを取りにいくこと、場所ごとに可能なユースケースをしっかり作っていくところが必要だと考えています。」
物理的な空間には、消防法や屋外広告物条例など、さまざまな法令による制約があります。デジタル空間は、そのような規制の制約をほぼ受けないので、空間活用の可能性は大きく広がっています。また、空間とのコミュニケーションが変わることで、現実に対する認識や生活が根本から変わっていくでしょう。
最後に竹下さんは、「GATARIはデジタル空間のプラットフォーマーとして、さまざまなパートナーとの共創を進める中で、人とインターネットが融け合う社会を創り出していきます。」と将来ビジョンを語ってくれました。