現実世界と仮想世界を組み合わせたMRは、エンターテインメントをはじめ、さまざまな領域で活用が期待されている技術です。MR体験を設計・制作できるオーサリングツール「Auris」の開発・提供を行う株式会社GATARI 代表取締役CEOの竹下俊一さんに、XRとの出会いやサービスについて伺いました。
「世界を変えられる」XRの可能性に魅せられて創業
GATARIは、XRサービスの企画開発・運営を行うスタートアップです。「XR(エックスアールまたはクロスリアリティ)」とは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)など、現実世界と仮想世界を融合することで、現実にはないものを知覚できる技術の総称です。
代表取締役CEOの竹下さんは、大学時代にVRを使った就職説明会に参加した経験がきっかけでVRに魅了され、VR学生団体の創設などを経て2016年にGATARIを創業しました。
「当時はVR機器も普及しておらず、就職説明会では、渋谷のライブホールへ行ってヘッドセットを着用しての面接でした。アバターも無機質な青い人型で、現在の技術とは比べものにならないほど低い。それでも日本にいながらにして、アメリカにいる面接官と会話をして握手をしたことに強い感銘を受けました。同時に人間の知覚を操作することで人為的に世界を変えられるVR技術に無限の可能性を感じました」と竹下さんは言います。
創業後は当時需要が見込めた不動産業界向け内見システムの開発から始まり、三次元コンテンツの開発からVRを使った会議室サービスの開発まで、XR技術を使ったさまざまな研究開発を通じてノウハウを蓄積。そこから2020年にAR Cloudオーサリングツール「Auris(オーリス)」をリリースしました。現在は、Aurisのライセンスとコンテンツ制作、ソリューション提供の3事業を軸に展開しています。
現実空間にいくつものデジタル情報を重ね合わせできるのが魅力
Aurisは、MRコンテンツ開発に必要な実空間のスキャンや、座標位置への音声データ設定をスマートフォンだけで行えるプラットフォームです。開発経験がない非プログラマーでも利用でき、施設に手を加えることなく音を活用したMR体験を設定できるのが特徴です。
MRを体験するデバイスには、Microsoft HoloLensのようなヘッドマウントディスプレイやメガネ型のMRグラスがあります。しかし、どちらも現時点ではそれほど普及していないため、GATARIではスマホとイヤホンを利用する方法や、専用の端末をレンタルする方法を取っています。スマホを利用する場合は、専用アプリをダウンロードします。
お化け屋敷で声優が演じるキャラクターとデートできるアトラクションや、1年後に音声メッセージを相手に届けるクリスマス企画、地下鉄駅内で人気キャラクターの声や楽曲が楽しめるバーチャルライブ・ラリーなど、エンターテインメント用途を中心に業界・業種を問わず利用されています。それだけでなく、現実世界にデジタル情報を配置できるという特性を利用して、施設でテナントを誘致する際の内装確認や、視覚障害者向けの案内コンテンツなどにも活用されており、新しい情報インフラとしての役割も期待されています。
三次元座標データで心地よいMR体験を提供
MRの良さは、現実世界の三次元座標データにいろいろなデータを多層で重ねていけるので、一つの空間、一つの場所に何百通りの体験でも作れる点です。例えばエンタメ用のコンテンツと施設案内の音声、外国人向けの英語情報を同じ位置に設定・共存できます。それぞれの情報を必要とする対象者は異なるため、その人にとって必要な情報だけを選ぶことで心地よい体験を提供できます。
また座標データがあればセンサーやマーカーなどの設置が不要なため、既存の施設・設備に手を加えずに済むこともMRの強みです。通常、美術館で特別展を開催する際には館内のレイアウト変更のため開催前後で数日~数週間の閉館が必要です。しかしMRの場合は閉館せずに準備できるため営業時間が損なわれずにすみます。このような収益面での効果も大きなメリットです。