衛星需要の拡大や機器の小型・低コスト化などを背景に、民間企業による小型衛星の打ち上げが活発化しています。同時に衛星・地上間通信のニーズも急増していることから株式会社ワープスペースでは宇宙での光通信サービス提供を目指しています。CTOの永田晃大さんに、筑波大発のスタートアップとして人工衛星向けビジネスを開始した経緯やご自身の夢などについて伺いました。

大学発プロジェクトをきっかけに起業

ワープスペースは、小型衛星を利用した宇宙空間での光通信サービス「WarpHub InterSat」の実現を目指すスタートアップです。衛星は周回する高度によって、地球に近い軌道を回る低軌道衛星(地上200~1,000km)、中軌道衛星(地上2,000~20,000km)、静止軌道衛星(36,000km付近)などに分かれます。同社は、低軌道衛星が抱える「地上と通信できる時間が短い」という課題を解決するため、光通信を行う中継衛星を中軌道上に打ち上げ、宇宙空間で高速通信ができるようにするインフラ構築事業を行っています。

会社設立のきっかけは、筑波大学の亀田敏弘准教授が取り組む人工衛星の開発プロジェクトでした。筑波大の学生だった永田さんは、プロジェクトメンバーとして2つの人工衛星打ち上げに携わります。それが縁で2016年に亀田先生と永田さん、常間地悟さん(現 代表取締役CEO)が中心となりワープスペースを起業、キューブサットと呼ばれる超小型衛星向けモジュール機器製造などの事業を立ち上げました。

画像: ワープスペースが開発した超小型人工衛星「WARP-01」は、サイズは108mm×110mm×113.5mm、重量は0.927kgの1Uキューブサット。2021年3月14日に、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から宇宙へ放出された。

ワープスペースが開発した超小型人工衛星「WARP-01」は、サイズは108mm×110mm×113.5mm、重量は0.927kgの1Uキューブサット。2021年3月14日に、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」から宇宙へ放出された。

永田さんが参画を決めたのは、起業やスタートアップ経営といった得難い経験ができることに加え、自身がずっと持っていた「地球外生命の発見」という夢の実現に関わるためでした。

永田さんは、「最先端の技術を開発することで地球外生命を発見したいという思いがありましたが、技術だけでは夢の実現には難しいことはわかっています。宇宙産業が発展してはじめて、深宇宙をはじめ、より難しい環境への探査が可能になるでしょう。ワープスペースへの参画は、亀田先生が掲げる『より低コスト、高品質な衛星コンポーネントを世に出すことで宇宙開発の裾野を広げたい』という理念に共感したことはもちろんですが、夢の実現に近づける可能性があるのであれば、ぜひやりたいと思ったのが大きな理由でした」と話します。

「宇宙には底知れぬ不思議さがあり、一生かけてもたどり着けない不思議な領域」

永田さんは「宇宙には底知れぬ不思議さがあります。一生かけてもたどり着けない不思議な領域なので挑戦したいと思いました」と宇宙への想いを語ります。

天文好きな父親の影響で子どものころから宇宙が好きだった永田さんは、何でも教えてくれる父親が唯一、「宇宙人がいるかどうかについては、まだ誰にもわからないんだ」と答えたことが心に残っていました。さらに2012年にNASA(米航空宇宙局)が火星にある生命の痕跡を探すというミッションのもと火星探査車キュリオシティでの探査を開始したことを知り、自分と同じ夢を、国家的な事業として行っていることに衝撃を受けました。永田さんは地球外生命の発見を一生の目標に据えて、ものづくりエンジニアリングという立場から夢の実現を目指そうという想いを強め筑波大学へ進学、そこから衛星プロジェクト、ワープスペースへとつながっていきます。

2019年に修士課程を修了する際、ワープスペースを続けるか、他企業に就職するか、博士課程で研究を続けるかという3つの選択肢がありました。しかし同年1月に今までのキューブサット向けモジュール開発事業から宇宙空間の通信インフラ構築事業にピボットしたことが大きく影響しました。その事業は、永田さん、創業者の亀田さん、常間地さん(現CEO)が1年以上かけて計画を練り込んだもので、永田さんが地球外生命発見に必要不可欠だと考える事業そのものであるからです。その時に、それまでの自身の研究活動を中断しワープスペースでの事業を主軸に注力することを決心しました。

光通信により衛星の可能性を大きく広げる

観測衛星には、宇宙を観測するものと地球・地上を観測するものの2種類がありますが、市場としては現時点では地球を観測する方が需要として大きいと考えられます。現在数多く打ち上げられている地球観測衛星の主な目的は、地上の状態を写真撮影し、その観測データを地上にいる人間が利用することです。例えば、天災・地災などの災害情報、交通・物流・建築物などの社会インフラの可視化、農林水産などの一次産業などで、衛星画像データの活用が進んでいます。

ところが、衛星画像データを活用するには、課題があります。従来小型の低軌道衛星は1周90~100分というスピードで地球を周回しますが、そのうち地上と通信できる時間はわずか数分で、1日全体でも10%程度の時間しかありません。これらの衛星画像データが地上に下せるのは翌日になってしまう、という場合もあります。

そこで、中軌道上に衛星間の光通信ネットワークを構築することで、非常に高速かつ大容量の通信を常時利用できるようになります。地球・地上の観測をはじめとし、果ては宇宙空間の観測まで、衛星画像データの活用は大きく広がりつつある中で、通信性能が向上してリアルタイムに高解像度データをやりとりできるようになることには、非常に大きな価値があるのです。

(後編へ続く)

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