2022年4月に日本ユニシスから商号変更したBIPROGYが開催したBIPROGY FORUM。様々なゲストを招いて示唆ある話をお聞きします。キャナルベンチャーズからは、VCパートナーをお招きし、優れたエンジニア起業家が世界を席巻している中で、エンジニア起業家と創り出す、イノベーションを生み出すコラボレーションの在り方について、語り合いました。
【登壇者】
MIRAISE Partner & CEO 岩田 真一さん
キャナルベンチャーズ株式会社 代表取締役 朝田 聡一郎
エンジニア起業家になぜフォーカスしたか
朝田)キャナルベンチャーズの朝田です。本日はエンジニア起業家をテーマに、MIRAISE(ミレイズ)の岩田真一さんとセッションを行います。岩田さんのご経歴を紹介いただけますか。
岩田)MIRAISEの岩田です。私は1996年にソフトウエアエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後外資系のソフトウエア会社でエンジニアとして経験を積みました。2005年にスカイプジャパン株式会社を設立して、代表を務めました。その後、欧州最大のベンチャーキャピタルであるATOMICOのパートナーを7年ほど務めました。2018年に、エンジニア起業家を主に支援するVCとしてMIRAISEを設立いたしました。
朝田)MIRAISEはなぜエンジニア起業家にフォーカスされているのでしょうか。
岩田)私自身がエンジニアのバックグランドを持っていること、自分で起業した経験があること、欧州のファンドで投資経験もあったことの3つの経験を活かしています。かつて日本にもエンジニアが起業して大きくなった会社がたくさんありました。しかし、最近のソフトウエア関連のスタートアップでは、エンジニア起業家が率いているケースがあまりないので、そこに貢献できるようにこのファンドを作りました。
エンジニア起業家は最先端のテクノロジーで課題解決に取り組む
朝田)ソフトウエア中心に駆動する現在では、グローバルで支配的影響力を持つテック ジャイアントが席巻していますが、率いているのは優れたテクノロジーを持つエンジニア起業家です。日本におけるエンジニア起業家の実態はどのようなもので、どのような特徴があるのか。日本ではエンジニア起業家に焦点を当てた議論が少ないので、あえてこのテーマを選びました。
最初にエンジニア起業家の定義を教えてください。
岩田)プログラマー、ソフトウエアエンジニアの実務経験を持っている起業家のことです。
システムエンジニア(SE)は、お客様の課題を聞いて、それを技術的なソリューションとして設計して展開していく。また何か問題があればそれを技術的に解決していく役割です。
それに対して、自分でプログラムを書き、かつ自分で起業しようと思っている人のことをエンジニア起業家と呼んでいます。
朝田)事業会社のシステムエンジニアは、中にある課題を解決していく。エンジニア起業家は外にある課題を見つけてそれを解決していくわけですね。
岩田)起業家は課題を発見して、それを解決していく存在なのですけど、その起業家がエンジニアであれば、最先端のテクノロジーを活用したソリューションを作れる。そういった意味でエンジニア起業家は価値が高いと分析しています。
経営やビジネスに活きるエンジニアのスキル
朝田)起業家というと、商社出身とか事業会社で経験された方が、ネットワークを活かしてセールスやマーケティングをするイメージがあります。一方でエンジニア起業家はテクノロジーやITには強いけど、セールスやマーケティングは苦手なのでは、と思うのですが。
岩田)イメージはそうですね。ファイナンスや法務とか、営業やマーケティングに関しては、初心者のケースがあります。苦手ではなくて初心者というところがポイントで、起業した後に私たちのようなVCがサポートしたり、その過程においてスキルを身につけていったりすることができる。学習可能であるという意味で初心者と言っています。
その一方で、エンジニアですから、素早く試作品を作ることができます。最初のプロダクトは何度も何度も改修して、お客さんの声を聞いて改善していきますが、そのためには早くたくさんサイクルを回す必要があります。また、優秀なエンジニアは優秀なエンジニアのところに集まりたいので、採用にも効果がありますし、社会課題やビジネス課題に対して最新の技術を駆使したソリューションを生み出すことができるという特徴もあります。
朝田)企業経営にエンジニア起業家が向いているのはどんなところでしょうか。
岩田)エンジニアとして身につけたスキルがそのまま経営やビジネスに活かされています。プログラマーが必ず言われるのは、シンプルにコードを書け、プログラムを書けとか、スケールした時どうなるか考えろ、再現性を確保しろとかです。また、予想外のことが起きた場合の例外処理など、多くのエンジニアスキルがビジネスに置き換えられます。
私たちが投資先のエンジニアと話す際も、おそらく彼らはプログラムを書くときに身につけた、これらの構造が頭に入って話をしているのだと日々感じています。
彼らはただのエンジニアではなくてエンジニア起業家ですから、自らの存在意義を語れること、課題解決からスタートしていることが、投資判断において重要視しているポイントになります。
朝田)経営を起業家が行い、テクノロジー部分をエンジニアが行うケースが多いと思いますが、それに比べてエンジニア起業家にはどんな違いがあるのでしょうか。
岩田)近年のビジネスは、経営と技術がより切り離せなくなっています。これまでのようにエンジニアが技術だけをやって、ビジネス側の人が事業をやっていくのではなくて、それらが統合された形での事業展開が必要です。特に事業サイドの人がエンジニアの素養を持っていることが求められると思います。
シード期の資金調達をサポートできるVCが求められる
朝田)エンジニア起業家を取り巻く環境として、どういった課題がありますか。
岩田)エンジニアが起業した場合、シード期の資金調達に苦戦する傾向があります。
汗だくで目も合わせられずに、プレゼンするエンジニア起業家がいる一方で、営業やコンサル出身の方が起業する場合は、事業のプレゼンも上手です。その二者を比較すると、どうしても後者のほうがビジネスプランやマネタイズ手法が優れているように見えてしまう。
しかし、それは投資家サイドの問題でもあると考えています。日本の場合、金融出身やコンサル出身の方が多いので、技術的なソフトウエアの中身まで踏み込んで評価ができない。本当に儲かるのかどうかわからない初期の段階で、ベンチャーキャピタルや投資家全般にソフトウェア技術を見極める人が少ないのではないでしょうか。
研究開発型ベンチャーの場合は特許があるので、国際特許や国内特許の取得数が投資担保となって評価できますが、ソフトウエア技術の場合は特許を取ってから起業する人はあまりいない。いかにシード期で見極めるか、そこが出来ていないことが大きな課題です。
繰り返しになりますけど、エンジニアの苦手なところをしっかりサポートすることが大切で、そこを理解してプログラムに組み込んでいくベンチャーキャピタルが必要だと思います。
エンジニア特化の支援基盤MIRAISEプラットフォーム
朝田)確かに技術を背景に立ち上がってきたスタートアップで、シード期やアーリー期は、資金調達が難しい。MIRAISEとしてはどんな取り組みをされていますか。
岩田)一番大事なのはコミュニティ型のサポートで、エンジニア起業家同士で教え合うオンライン空間を作って、投資先の起業家全員に、そのコミュニティに入っていただいています。わからないことがあったらそこで聞く、知っていることがあったらそこで回答してあげる。文殊の知恵をどんどんそこに蓄えていくことによって、みんなが強くなる全員参加のピアラーニング・コミュニティです。
外部講師を招いた月例勉強会も開催しています。テーマは、エンジニアが苦手そうな法務や営業、商談とか、マーケティングやPRに特化しています。資金調達が直前に迫って短期的にプレゼンテーションのスキルアップをしたい場合は、100日間のプログラムという集中的な特訓プログラムも用意しています。他には、蓄積されたノウハウをデータベース化して、投資先の人々が参照できるようにもしています。また、日本とグローバルのメンターがそのコミュニティの中にいて、メンターの方に自由に質問や相談ができるようになっています。
朝田)至れり尽くせりのMIRAISEプラットフォームですね。ハンズオンのスタイルはどんな特徴があるんでしょうか。
岩田)私たちはハンズオンではなくてハンズイフと言っています。ハンズオンとハンズオフの間と言うか、必要な時だけ助けるものです。
朝田)岩田さんの場合はATOMICOでVCとしていろいろ経験されたきたということですが、欧米のVCなどではこの“ハンズイフ”の考え方を一般的に取り入れているものなのでしょうか。
岩田)口を出されたくないけど、困ったときは助けてほしい。これはまさにハンズイフなのですけど、それをATOMICOでも採用していました。Skypeの創業者が作ったファンドなので、自分の時にこういう投資家が欲しかったという考えでできたのではないかなと思います。
朝田)必要なときに必要な支援をあげられる体制をきちんと整えておくことですね。