株式会社森未来(シンミライ)は「Sustainable Forest」をミッションに掲げ、木材のBtoBプラットフォーム「eTREE」を提供しています。代表取締役の浅野純平さんに、起業のきっかけやサービス概要について伺いました。
林業での起業を方向づけた3つのピース
浅野さんは、音楽活動ののちIT企業に就職、営業・管理職を担当していました。当時IT業界は売り上げも伸びて右肩上がりの状況でした。しかし、とにかく売れればいいという方針に疑問を感じ始めました。起業したいという想いは漠然と持っていましたが、社会に貢献するスケールの大きなことをしたいと模索していました。
起業するにあたっては、「3つのピース」を重視しました。
1つはスケーラビリティがあること。特定の地域だけではなく、日本全国が元気になるような、あるいはグローバルでも通用するようなビジネスであること。
2つ目は、社会貢献性があること。世のため、人のために役立つ仕事であること。
3つ目に、「自分が好きなことでなければ続かない」と考え、地方創生や社会形成、自然に関わることにターゲットを絞ります。
地域活性化を念頭に一次産業でビジネスモデルや事業上の課題を探すうちに、ある大工の棟梁が書いた本を読み、日本の林業の課題を知りました。林業は地方でしか存在しないため、林業が活性化すれば地方が元気になります。林業が3つのピースに当てはまることに気づいた浅野さんは、2015年に東京都の秋川木材協同組合に入社しました。実際に現場に出ることを経験しないと本当の意味でのビジネスの感覚が理解できないと考えたからです。1年間の修行ののち、株式会社森未来を設立しました。
サンプルの発送を受注につなげる
森未来は持続可能な森林を作り、次の世代へつないでいく「Sustainable Forest」をミッションとして掲げています。日本は森林資源には恵まれていますが、国産材自給率は36%と、多くを海外からの輸入に頼っています。世界では年間520万ヘクタールの森林が消失していると言われており、国産材の有効活用が望まれています。
一方、産業としての林業は公共事業・補助金なしでは成り立たなくなっています。木材はあらゆるものに使われており、環境にも非常に影響のある産業なので、ビジネスとして持続可能にしていくことが重要です。そのためには、林業の活性化が必要です。最初に思い浮かんだのは、「木材の産直プラットフォーム」でした。
農業では、消費者が農家から直接購入するモデルが幾つかあります。どんな人が作ったのか、生産者の顔が見える仕組みがあります。林業、木材は産直の仕組みがなく、例えば住宅は一生で一番高い買い物と言われていますが、生産者や商品に関する情報が少ないと感じました。そこで、誰でも産地から木材を直接買える仕組みを作ろうと考えました。
2018年に「インターネット木材市場」というコンセプトで最初の「eTREE」を作りましたが、結果的にあまりスケールしませんでした。一般の方に材料をそのまま販売しても加工が難しかったためです。住宅メーカーも同様で、さらに重さ、保管場所、物流の問題もあります。林業家と使う人をダイレクトにマッチングするだけでは意味がなかったのです。
また、よくよく考えると設計者である工務店はショッピングカートで木材を購入しません。見積書を作って発注書を出してというワークフローがあります。そのため、このサービスは仕切り直すことになりました。2020年、今度はターゲットをBtoBに定めて、「eTREE DASH」という木材のサンプルを送るサービスを作りました。商談で設計者に提案をすると、必ず「サンプルが欲しい」と言われます。先にサンプルだけを送り、顧客をつかまえることができたら仕事につながるのではないか、という仮説で始めました。1日に数件オーダーがくるようになり、そこから商談が発生して受注につながるというワークフローができました。