XR技術を用いて現実と幻想がミックスした非日常体験施設を運営するティフォン株式会社。創業者・CEOの深澤研さんは、ホラーアトラクション、ARカフェに続く次のステップとして、パーソナライズされた体験の提供を目指しています。
XR技術を多様なシーンに展開
現実では体験できないような非日常体験ができるのがVR(仮想現実)の魅力です。その人の目の前までお化けが飛び掛かるような動作だけでなく、建物自体が生き物のように動いたり、建物の中から外に出て壮大な景色を伝えたりといった、リアルなお化け屋敷では実現不可能なことができます。
2017年には東京・お台場に、魔法のような体験ができる没入体験型エンターテインメント施設「ティフォニウム」をオープンしました。VRに次世代テクノロジーを組み合わせた独自技術「MR(Magic-Reality)」を使用し、今までにない体験ができるようになっています。
さらに2019年末には渋谷パルコに体験型のカフェ「ティフォニウム・カフェ」をオープンしました。AR(仮想現実)とスイーツを組み合わせた魔法パフェを提供する施設で、注文したパフェにiPadをかざすとキャラクターがパフェの周りを動き回って見える演出をしています。パフェを食べるだけではなく、ストーリーを体感できる、新しいコンセプトの店舗として人気です。また、渋谷にはフランチャイズで体験型の店舗もあります。
AR、VR、MRなど、いわゆるXR(エックスアール)と呼ばれる技術は同一線上にあり、現実がゼロであればVR、現実のほうが多ければARと、現実とCGとの割合による違いで捉えることができます。またVRは現実から切り離された別の場所に没入したいとき、ARは現実の場所に付加的な情報を与えたいとき、と用途によって使う技術が変わっていきます。
なかでも将来的にやりたいのは、ARを使った新しい体験です。例えば街中でCGのキャラクターと会話することでストーリーが展開されるような、日常的な風景と溶け合った形で非日常体験ができるコンテンツを提供したいと考えています。
ティフォンの強みはXR技術だけでなく、リアル店舗を持っていることにあります。リアルでの体験とアプリなどによるAR体験の連携は、類似の技術を持つ他社が手を出しにくい分野でもあります。例えばPokémon GOのようなゲームであれば、スマホ内でキャラクターを育てている人が休日に友人と店舗を訪れ、そこで実際に現れた自分の育てたキャラクターと一緒に過ごすことができるという具合です。店舗の中であれば熱や振動、風などの効果が使えるので、その場所でしか得られないリッチな体験ができます。今後は「日常の中にある非日常体験」をコンテンツとして設計していく計画です。
次のステップはパーソナライズされた体験の提供
記憶に残る魔法のような体験を人々に届けたいという思いから、「魔法のような体験を、ひとりひとりに。」をビジョンに掲げています。「単に楽しかっただけで、忘れられてしまうような消費されるエンタメではなく、私自身が子供の頃に体験したような、大人になっても覚えている体験を作りたい」という思いがあります。
今までは技術的な難易度が高く実現が困難でしたが、将来的には同じ場所でも、ひとりひとり異なる特別な体験が提供できるようにしたいと考えています。その人の趣味嗜好や脳の状態などに合わせて最適なコンテンツを提供することで、さらにその人の特別な体験として記憶に残っていくでしょう。
例えばCGのキャラクターとやりとりすることで徐々に懐いてくる、育て主に似てくるなど、自分とキャラクターとの関係が特別なものになり、その人にとっては唯一の体験になります。さらに、その人のライフスタイルや現在の感情を収集・分析して都度ストーリーを変えるストーリー生成AIや、その人だけの世界をビジュアルで表現するプロシージャルコンピュータグラフィックス(事前に入力したデータを利用して自動生成されるCG)の活用も視野に入れています。どちらも難易度が高い分野ではありますが、次のステップとして挑戦していきたいと考えています。