人事領域をテクノロジーで改善するHRテックが注目されるなか、スタッフのデータを収集/分析するピープル・アナリティクスの動きが国内でも徐々に広がっています。企業の人財マネジメントを支援するパナリット・ジャパンを立ち上げた小川高子さん、トラン・チーさんにサービスの特徴や日本法人立ち上げの経緯を伺いました。
人事で主流になりつつあるデータを活用した「ピープル・アナリティクス」
Panalyt(パナリット)はシンガポールに本社を置く人事専門の分析ツールを提供している会社です。社名と同じ製品名を持つPanalytは、企業で既に導入している基幹システムや人事管理システム、または膨大なエクセルファイルなど、複数のシステムやデータファイルをAPI連携し、総合的に可視化・分析するツールです。企業の人事・組織経営に関する意思決定を、データに基づき実行する「データドリブン」型にすることを目的にしています。それにより組織の幸福度・満足度の向上を促し、長期的には企業の成果向上やビジネスの強化につなげていきます。
ピープル・アナリティクスとは自社スタッフの人事情報、評価情報、メール/チャットツールなどコミュニケーション履歴、満足度調査の結果など、組織に関するあらゆるデータを収集、総合的に分析して人事の意思決定に活かす取り組みを指し、現在欧米ではかなり主流になっています。
小川さんが10年前に人事としてキャリアをスタートしたときは、多くの人事情報は紙媒体でデータ化されておらず、年間数万人分の履歴書・職務経歴書は役目を終えたらファイリングされ、段ボールに入れられ、倉庫で保管されていました。現在ではHRテックの発展が後押しして、多くの企業が何らかの形で人事情報をデジタル化して管理するようになり、ピープル・アナリティクスを始める土台ができています。
データ駆動で組織の意思決定に活用
さまざまな分野でデータ分析の重要性が認識されるようになったことで、データドリブン型の人事の重要性も認識されているものの、利用できるサービスやプラットフォームが限られるため「そういう先進的なことに取り組めるのは、結局GoogleやAppleのような資力のある一部の企業でしょ」という声は少なくありません。Panalytはその障壁を取り除き、すべての会社が当たり前にデータに基づく戦略的な人事が行える世界を実現するため設立されました。
同社の製品は“Out-of-the-box”型(箱を開けた瞬間すぐに使えるようになっている状態)のクラウドサービスなので、導入後運用に至るまでに社内リソースを使うことなく、すぐにピープル・アナリティクスに取り組めるのが特徴です。大規模なアナリティクスチームを社内に抱えずとも、どのような企業でも簡単にデータドリブンな人事が行えることを目指しています。
マーケティング分野では、顧客がどうやってサービスを知り最終的に購入に至ったのかという“カスタマー・ジャーニー”をデータで捉え、顧客の購買行動を科学しています。人事分野でも同じように、従業員がどうやって企業を知りエントリーして、入社し仕事をして成果を上げ評価され、いくつかの部署・職種を経験し、最終的に退職したかという“エンプロイー・ジャーニー”をデータで把握することが可能です。カスタマー・ジャーニーを分析することで、どうやったらより顧客が商品を購入したいと思うか、長く利用してもらえるかの設計ができるのと同様、エンプロイー・ジャーニーを分析することで、どうやったらより企業に就職したいと思うか、スキルを伸ばしずっと働いてもらえるかの設計が可能になります。
Panalytでデータを可視化・分析することで、企業内に点在する “人データ” をエンプロイー・ジャーニーを適切に捉えられる形に変容し、組織に役立つ情報として経営や現場に伝達できます。これにより、会社全体としてより良い意思決定が促されます。人事に関する意思決定では何が “正しい意思決定” とは一概に言えませんが、データに基づく客観的なインサイトが入ってくると、少なくとも新しい視点を取り入れた上での “意識的な意思決定” が可能になります。企業や投資家が財務状況の健全性を把握するために財務諸表を用いるように、今後は当たり前のように組織の健全性を測るためにピープル・アナリティクスが用いられると考えます。