シンクタンク 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 常務執行役員 新事業開発室長 南雲 岳彦氏にインタビューをおこなった。南雲氏は、キャナルベンチャーズが 主催した「第2回 Digital Transformation Meetup」に事業会社の一人として参加した。三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、アクセラレータープログラムをてがけるなどスタートアップの支援も積極的だ。南雲氏に今回のイベントの印象や、現在注目する「シティ」について話を伺った。
企業・行政とスタートアップをつなぐシンクタンク
「スタートアップやベンチャーキャピタルに対し、改めてシンクタンクは何ができるだろうか、あのイベント以来考え続けている」と語る南雲氏に、キャナルベンチャーズ 保科剛は「一歩引いた視点で政府の方向性について解説するなど、行政とスタートアップとのつなぎをして欲しい」と返す。
シリコンバレーは大企業とスタートアップ、ベンチャーキャピタルがつながり、生態系がつくられている。しかし、日本はいまだに大企業と新興企業が断絶されている。それぞれ住む世界が違い、言語も違う。しかし、スタートアップが拡大し、日本が力をつけるためには、双方のつながりは欠かせない。そうでないと、いま勢いのあるシンガポールやインド、中国に飲み込まれてしまう。
また、日本のスタートアップは政府へ働きかけるロビー活動が弱い。海外は新興企業もどんどん政府の委員会の中枢に入り込んでいく。特にアメリカは、市場もルールも自分でつくるという意識が強い。ビジネス界と政府、両方対応できないと一人前のビジネスパーソンとして認められないからだ。日本では大企業も政府にあまりアプローチしない。即決するという行動力も弱い。
シンクタンクは、事業会社・政府・スタートアップと同じ距離を保っているからこそ、それぞれの間をつなぐことが期待される。
変革を進めやすい身軽なシティ
電子政府が進むエストニアは、大国ロシアに2度侵攻された歴史がある。そのためロシアから独立した後、領土以上にデータが鍵になるということで、一気にIT化が進んだ。ほとんどの商店はキャッシュレスで決済できる。一方、日本はどのような国になろうとしているのか。
南雲氏は「シティ(都市)単位でイノベーションがおこる」と、国や県などの大きな単位ではなくシリコンバレー、バンガロール、バルセロナのようなシティに注目する。国内でいうと例えば20万人くらいの人口規模になると、イノベーティブな動きがスケールしやすくなる。住んでいるところと職場が快適であれば、人はハッピーになる。それを実現するシティ同士がつながり、ネットワークを広げていく。
シティという話題を受け、保科はキャナルベンチャーズがさまざまなスタートアップをつないでいる青森県を紹介する。青森県は、インバウンドの伸び率も日本一であり、県知事のもと、青森県庁、青森県観光連盟、青森商工会議所がスムーズに連携している。また、積極的にスタートアップのサービスを導入している。南雲も「ほうっておくと目がいかない地方こそ、おもしろい」と興味を示す。テーマ性が明確だからこそ、他とは異なる特色がでるからである。
人の流動性
保科は最近、接点のある官僚から「転職する」という報告を聞くようになったという。タイミングをみて外へ出て、経験を積んだ方が先々役立つという、長期的なリスク管理をしているのだろうと分析する。しかし、日本ではそのような動きはまだ一部だ。日本の大企業の中には閉塞感を訴える人も少なくないのではと南雲は指摘する。
また、手数料ビジネスから転換をせまられている銀行はデジタルトランスフォーメーション をせざるをえない。その際に何万人もの銀行員はどうなるか。銀行系のシンクタンクであるからこそ、銀行のビジネスや人材における危機感は南雲にとって切実だ。
一方、優良なスタートアップにはお金は集まるが、人手不足が深刻である。エンジニアはもちろん、シニアもだ。大企業の経験者で、大企業や行政との交渉ごとを進めるられる人が、ずっと大企業にとどまらずに、もっとスタートアップに移り、力になって欲しいと保科は言う。
10年前とくらべてスタートアップのエコシステムはよくなってきている。キャナルベンチャーズのような大企業の子会社であるCVCや、マクロな視点を持つシンクタンクが、スタートアップと距離のある組織(行政・企業)をつなぐことで、スタートアップの市場がさらに発展する可能性をみいだした対話となった。
参考:青森県観光連盟とスタートアップ「PIAZZA」