IDで断絶から接続へ

この2カ月で上海・深圳・アメリカと次々に海外視察へ行ってきたキャナルベンチャーズ(CV) 保科剛 Tsuyoshi Hoshina。「各国で見た進化のスピードが想像以上で衝撃を受けた」という話題から、D4DR 代表取締役 藤元 健太郎さんとのダイアローグがスタートしました。
  
新規事業開発やマーケティング関連のコンサルティングをてがけ、政府の委員会にも招聘される藤元さんは、流通小売の進化はID化が鍵だと語ります。
 
商品にIDが付与されれば、商品データが管理できるので、リアルな店舗の在庫状況もネットから把握できます。さらに個人IDと商品IDがひもづけば、欲しい商品を所有者個人から借りることもできるし、所有者が売りたいと思っていたら購入することもできるという世界も実現します。しかし、日本では多くの小売流通が在庫をデータ化していないため、情報が分断され、情報の非対称性が生まれています。
 
例えば、コンビニへ買いに行こうと思っても、ネットからでは在庫状況がわかりません。15分かけて歩いていったところ、在庫がなくてがっかりすることは珍しくはありません。ECの場合は商品の有無がわかり、さらにAmazonプライムを使えば2時間以内に届けてくれます。
 
日本の小売流通は、決して何もしてこなかったわけではなく、サプライチェーンマネジメントの整備を進めていました。しかし、いきなり延長線とは違うところからの未来を提示されて「え!?」となっている状況なのです。
 
海外企業は、自社にないサービスや商品は、それを提供する企業を買収して追加していきます。それでスピードアップするのです。多くの日本企業はすべて自社でなんとかしようとしています。しかし、藤元さんと保科の認識は、Googleのような巨大プラットフォーマーを目指すのは日本の方向性ではないということです。
 
いま、本業とは別に定期または不定期でスナックやバーのママやマスターをするという静かなブームがあります。ポップアップストアのような「一時的で小さなビジネスができる環境を増やす」というのが、日本には相性がよい新たな道かもしれないと藤元さんは語ります。

人の流動性

D4DRの藤元さんに、キャナルベンチャーズの保科が「日本企業が、海外企業のように買収でビジネスの速度を上げない理由のひとつは、人の流動性がないからではないか」と問いかけます。
 
多くの経営者がひとつの企業にとどまります。東で1万石にしたら西へ移動してまたゼロから城を作るよりも、同じところで100万石まで成長させようとします。周りもそれを期待します。買収するのもされるのも好まない経営者が多い、と藤元さん。0から1 にすることが得意なシリアルアントレプレナーは、会社を大きくすることよりも1を生み出すことを繰り返すほうが本人の性に合いますし、イノベーティブな事業が次々と生み出されるという意味では、社会にとっても有意義です。
 
大手企業を辞める人が少ない、というのも流動性がない要因のひとつです。スタートアップではCFOとCTOが足りていません。ファイナンスやテクノロジーに強く、経営戦略や上場にむけた多様な交渉ごとにまで関われる人材が少ない。大手銀行や大手IT企業から人が飛び出してきて、スタートアップに関わるようになると、もっとスタートアップが活性化すると保科は指摘します。実際、山一證券や日本長期信用銀行が破綻した時、優秀な人材がスタートアップ企業を支援し、大きな力になりました。
  
実は身内にも障壁があります。「嫁ブロック」です。大企業に勤めている夫が、名前も知らない企業へ転職するのを専業主婦や扶養の範内でパートをしている妻が止める、ブロックするのです。
 
藤元さんは「女性の社会進出」という政策を推進することが欠かせないと指摘します。夫婦でしっかり稼げば、どちらかの年収の変動があるとしても、リスクをとることができるからです。
 
さらに、政府が兼業・副業を推進する動きは、大企業のサラリーマンには挑戦のチャンスになるでしょう。
 
キャナルベンジャーズと日本ユニシスがタグを組んでスタートアップとともに青森の観光を盛り上げるなど、大企業の人々の力が地域創生へ貢献しはじめているという流れも始まっています。
  
藤元さんが最近関心をよせる「江戸時代」の暮らしや仕事は、これからの日本にとって参考になると言います。当時の人は、月に10日くらいしか働かない人が多くいました。月収10万円でもつましく暮らせばなんとかなっていたのです。丁稚奉公の人も、契約を更新できずに辞めさせられることもしばしばだったそうですが、多くの人は仕事を辞めてもなんとかなると考えていたようです。
 
変化が激しく予測のたてにくい今、抵抗なく仕事を変えていった江戸時代のように、気軽に転職して経験や知識を積んでいくほうが、柔軟に生きのこっていけるのかもしれません。

This article is a sponsored article by
''.